2008年07月25日

通り魔事件2:なんで増えた?

その1:ほんとに今年は多い?の続き。

ここ30年ほどを見ると、確かに今年は通り魔事件が多い。昭和30年代以前の200件とか300件とかに比べると激しく少ないのだけど、ここ30年ほどはずっと数件だったんで、そのなかでは多い方というのはウソじゃない。今年もまだ半年なので、万一このまま推移すると、ここ30年では最も多くなるかもしれない。という話まで書いた。

で、なぜ増えたかを考える前に、ちょっと違う話。

■こういう「増えた」は、どう見ればいいのか
この手の、ものすごく少ない事例を扱うときには、安易に「倍増」などということは言えない、ということは念頭に置くべきだろう。ぼくは統計や数学のしろうとだけど、それぐらいのことは最近になって気がつくようになった。
もちろんニセ科学問題についてお勉強をしているおかげだ。ニセ科学万歳(違

相手は1億何千万の人なのだ。そんで殺人の件数全体だって年間1000件ちょっとしかないのだ。この段階で、すでに「統計的に見て、増減がどうの」なんて、言いにくいよなあ、と思いませんか。

※7/26追記:この辺、「母数」という言葉が適切でない疑いが濃いので表現を修正。

統計に詳しい人がいたら、ちょっと教えてもらいたい気もするのだが、通り魔事件の場合、通り魔の件数や被害者数を分子にして考えるのだとして、なにを母数と見てどういう集合を分母において比率を出せばいいんだろう。どれぐらいの数値があったら統計的に意味のある考察が可能で、増減がどれぐらいあったら「犯罪の変化」とか「社会の変動」などとみなせるような意味で有意な変化のだろう。
殺人だけを母数分母にしてもいいのかな。「殺人事件の認知件数」って、こんな具合なんだけど。

   S30(1955) 3066件
   S40(1965) 2379
   S50(1975) 2098
   S60(1985) 1780
   H 7(1995) 1281
   H12(2000) 1391
   H15(2003) 1452
   H18(2006) 1309
   H19(2007) 1199

上の表は、下記からいただいた。

凶悪犯罪減少の事実…メディアは煽りをやめよ!(ビジネスマン育成塾 2008年6月20日)

元データは「犯罪統計書」だそうな。多分、統計(警察庁)にある平成19年の犯罪情勢(PDF)。このブログ記事、1995年頃の世界各国での殺人事件発生率を比較した表も載せている。「2007年の殺人事件発生率は戦後最低だった」って話は、うちでも前にも書いたけど、そこまではしなかったなあ。

さて、殺人みたいに1000件余の事例が、2000件とかになったなら、そりゃ確かに倍増だろう。共通する理由なんかがあるかもしれない。
だけど、1億何千万の人が生活している中での、年に4件のものが8件になっただの、10件が20件になるかもなんていうのは、統計だの確率だので何かを言い得る話じゃないんじゃないですか?
誤差というか、「ほとんどない」というか、それぞれがぜーんぶ個別事例だの例外だのでしかないに違いないと思えてしかたないんですが。
なんとか無理矢理扱うとしたら、「ここ30年ほど常に30件未満ていうか100件未満だから、意味のある増減はしていない」とかって話の可能性がとても高いだろうと思っているんですが、違いますかね。

■で、どうして増えたのか
そういう疑念を念頭に置きつつ、それでも「なぜ増えたか」を無理矢理考えてみる。

最近の通り魔事件(や殺害予告事件)を報じる記事を見ていくと、先行する事件を参考にしているといった供述を得られたケースも多い。その点を指摘する記事も少なくない。最も最近の八王子の事件に限っても、下記のような記事が相次いでいる。

八王子殺傷:「通り魔だ」…身勝手な凶行に買い物客青ざめ(毎日新聞 2008年7月23日)
※(後半で犯罪心理学者による「共感し誘発の恐れ」とするコメント。後掲)

八王子殺傷、相次ぐ通り魔事件に影響され犯行か(YOMIURI ONLINE 2008年7月24日)

あちこちで通り魔、刃物なら簡単」 八王子殺傷容疑者(asahi.com 2008年7月24日)

【八王子通り魔事件】続発する同種事件参考に「刃物使えば簡単に殺せる」「両親を困らせようと思った」 菅野容疑者(msn産経ニュース 2008.7.24)

また無差別 連鎖なぜ? 八王子殺傷 孤独感 凶行の芽に(東京新聞 2008年7月24日)

「こんなの全部例外」というのが、ほぼ正しいとは思いつつも、半年で例年の一年分ってのは、なんかあると考えてもいいのかもしれない。

先に「ぼくらがこの手の事件を知ることができるのは、ほとんどマスメディアを通じてでしかない」と書いた。この点に異論がある人は、あまりいないだろう。ぼくはテレビをほとんど見ないが、多くの若者はそうではないだろう。むしろ、最大の情報源と言ってもいいかもしれない。だとすると、「通り魔事件のテレビ露出度が多くなるという事態は、極めて危険だ」という可能性はないだろうか。

■メディアが模倣を誘発している可能性は否定できない
前述したように23日の毎日新聞の記事には、次のようなコメントが寄せられていた。
 ◇共感し誘発の恐れ
 ▽作田明・聖学院大客員教授(犯罪心理学)の話 99年に東京・池袋、山口県下関市で通り魔事件が連続したように、この種の事件は連鎖しやすい。今年も無差別殺人事件が続発しているが、追い詰められて同じような境遇にいる人が事件を知って、共感し誘発されてしまう恐れがある。雇用問題など若い人が今置かれている厳しい状況を改善していくしかない。
こうした通り魔事件だけでなく、模倣犯の問題は実にしばしば指摘される。

自殺でも同じ構図がある。メディアでセンセーショナルに扱われると「自殺連鎖」「群発自殺」が起きることが知られている。WHOは2000年に自殺報道ガイドラインを作成して、準拠するよう勧告を発している。しかし、日本のマスコミ報道の不適切さには定評があって、今年になってからも、4月18日に自殺予防学会がマスコミに対して緊急アピールを発している。
自殺報道ガイドラインでは、連鎖を起こさせないために、手口、詳細なプロフィール、現場などを報道しないことを勧めている。こうした知見は、日本では(とくにテレビでは)ほとんど活かされていないが、実は自殺だけではなく、いわゆる凶悪犯罪全般について適用されてもいいのではないか。

と思ったら、同じようなことを考えている方がいた。

秋葉原事件の報道と模倣犯(さぼり記 2008-06-12)

自殺報道に関するガイドラインを引きながら、マスメディアがこと細かに模倣に使える動機やノウハウを教えている、と指摘している。ちょっと断定的に過ぎる気もするけど、おおむね同意できる。ガイドラインなんかへのリンクもあるので、どうぞ。

かつて「劇場型犯罪」という言葉があった。最近は見ないけど。凶悪犯罪の場合も、大々的に報道されることでヒーロー視されている「ように見える」ことがあり、それが模倣犯を誘発する……なんて話じゃなかったっけ。

そう考えると、メディア報道、なかでもテレビがアブナイと、ぼくは思うのであります。って、そう思っている人は、きっと多いよね。

いや、例外の集積でしかないという意味では、ほとんど個人の問題だと考えてるんだけどね。しかも、ひとつだけの理由なんて、取り出せないとも思う。
「世間の経済状況が」とか、「社会的な風潮が」とか、そういうことも関係あるかもしれない。そんなの関係ないとは言わない。ていうか言えない。わかんないというのが正しいと思う。
で、まあ本当のところはわからない。その「わからないことは、とりあえず置いておく」方式で考えてみているわけで。

などと言いつつ、続く


posted by 亀@渋研X at 17:00 | Comment(1) | TrackBack(0) | 渋研X的日乗 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする はてなブックマーク - 通り魔事件2:なんで増えた?
この記事へのコメント
こう云う事件があった時、小説家・医師のなだいなだ氏は、「実際に統計上、殺人は増えているのですか?いつの時点から増えているのですか?」と問い、マスコミのこうである(こう云って欲しい)との先入観を問いただす。
(今回一連の通り魔殺人は、実数的には、10年来では、増えているようですが…。戦前、その前に較べたら、どうかは、知りませんが…。)

亀@渋研X さんの云われるように、殺人事件は、確実に減っているのに、通り魔殺人は、マスコミの煽りの報道によって、「模倣犯を誘発」してか、(事件後、自分自身及び他人に、実際、何が起こるか、考えもせず、)安直・安易な人間が、誘発された気がします。
マスコミは、いい加減、事件を煽る報道姿勢を改めるべきと思います。

「秋葉原事件の報道と模倣犯(さぼり記 2008-06-12)」は、大変示唆に富み、なるほどと思いました。
特に、
<日本人は熱しやすくて冷めやすいと言われる。実際には熱しやすくて冷めやすいのは日本人というより、そうした事件を報道するマスコミのほう。彼等は、また別のショッキングでセンセーショナルな事件が起これば、そちらに取材報道ソースを移す。スクープ、隠されていた真実、恐るべき事件と手口と真相、などと称して。>
<今回の事件を「犯罪」として見ずに、「公共の場で起こす大量殺人」またはテロの苗床として見た場合に、今行われている各種の報道は非常に危険であることがわかる。
だって、「こんなに簡単に大量殺人ができますよ?」というノウハウを、公共放送を使って繰り返しレクチャーしているようにしか見えないし。

怪談屋から見れば、僕らの仕事よりも、そうした殺人ノウハウの普及と殺意の芽生えに同情する報道のほうが、よっぽど怖いですよ?>
は、マスコミの報道姿勢を辛らつに衝いていると思いました。

Posted by mohariza at 2008年07月26日 23:54
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]

認証コード: [必須入力]


※画像の中の文字を半角で入力してください。

この記事へのトラックバック
×

この広告は180日以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。