10/09 20:49追記:
コメントを受けて、2つの新エントリーをアップしました。
「マンナンライフ・サーキット物語」
たとえ話で、起きていることの構図を考えてみます。
こんにゃくゼリーは本当に危険か2:受益者と被害者の不均衡
この記事の不備を補って、再度考えるための記事です。
危険評価に関心がある方、こんにゃくゼリーでどういう事態が起きているのかに関心がおありの方は、あわせてどうぞ。本記事・追加記事ともコメント欄も注目です。
10/11 22:48追記:性懲りもなく、さらに追加。
こんにゃくゼリーは本当に危険か3:ふつうに危険なお菓子
こんにゃくゼリーは本当に危険か4:「ふつうの危険」への対策を考える
こんにゃくゼリーは本当に危険か5:危険評価と個人のバイアス
10/16 19:52追記:13日に、さらにエントリを追加した。
合理化はいかに行われるか(こんにゃくゼリーを振り返りつつ)
こんにゃくゼリー:マンナンライフが製造中止 - 毎日jp(毎日新聞)
この報道を受けて、mixiの日記が爆発しています。15時過ぎで約5800件、そのほとんどが「メーカーは悪くない」「製造中止はおかしい」「コレだけ騒がれているのに不注意で事故を起こした消費者(今回の事故については、親や祖母)が悪い」「モンスター消費者のクレームのせいだ」というものです。百件ほどをざっと見たところ、9割なんてものではなく、ほとんどすべてがこの調子です。
メディアでのこれまでの関連報道には、むしろ「またこんな痛ましい事件が」というものが多く、「より厳格な規制を」とか言いつのるようすを「危険な食品」というイメージ操作に近いものさえ感じていました。そのためもあって、ぼく自身も「ほんとにそんなに危険なの?」「メディアは騒ぎ過ぎなのでは?」と考えていました。
が、ある一点に気づいて、考えを改めたのが10月3日。その視点を「九段下総研」のテーマにしたいと思って、仕事用のMLに投稿してあったのでたまたま日付がわかりました。まだ連載で採り上げるかどうかはわからないのですが、原稿をまとめるときのためにも論点を整理してみたいと思います。
- 製品(こんにゃくゼリー)の危険性は?
- 誰が被害に遭っている?
- 関係者の対応は? 改善策は?
- 製品のベネフィットは?
- 【参考】諸外国では?
1. 製品(こんにゃくゼリー)の危険性は?
9月の事故を受けての一連の報道では、「国民生活センターが把握している分だけで1995年以来17件目」などと書かれていました。「18年間で17件、これは多いのか? センターが把握していない分は?」と疑問に思いググッたところ、この春の調査を見つけました。
厚労省:食品による窒息事故に関する研究結果等について
今年の5月8日に報道発表されていたようですが、ぼくは気づいていませんでした。
気づいた9/30のぼくのブクマコメントは「食品による窒息事故死者が多いのは、もち、ご飯、パンの順。カップ入りゼリー事故はかなり少数で、幼児より年寄りが多いとする調査。」というものでした。何をどう考えるべきかまだわかってない感じ、「もやもや」感ありありです。
こんにゃくゼリーは「カップ入りゼリー」に含まれています(こんにゃくを含まない製品との対比はされていないみたい)。
その翌日、GIGAZINEにも記事が出ていました。
「こんにゃく入りゼリー」よりものどに詰まって死亡した件数が多い危険な食べ物ベスト10(GIGAZINE 2008年10月01日)
この記事に対しては、とっても順当な反論がありました(いま発見)。
ご飯よりも安全でこんにゃくゼリーに匹敵する安全な食べ物ベスト1 !!(児童小銃 2008-10-01)
GIGAZINEの理屈だと「年に3件しか死亡事故のないフグの方が安全」とかいうバカな話になる、食べる頻度とか量も考えないと、という指摘。これがいわゆるリスクとハザードの問題ですね。危険そのものの大きさ(ハザード)と、そのハザードに遭遇する可能性の高さ(リスク)の、両方を評価しないと真の危険性は見えて来ないということです。
フグは、その毒性を考えるとハザードが大きい。こんにゃく入りゼリーも、実際に食べる頻度を考えると、窒息事故を起こすハザードが大きい。
2. 誰が被害に遭っている?
上記でも触れていますが、お年寄りや幼児が主な犠牲者です。
お年寄りは、それでなくても嚥下する力や吐き出す力が落ちているためでしょうか。
幼児も、体力の問題から重篤な事態になりやすいということは言えるかもしれません。
これは、「お年寄りや幼児は、弱いから仕方ない」というようなことなのでしょうか? とくに幼児は、逆さにして吐き出させるなどの方法も取りやすいはず。保護者が目を離すことがあるにしても、比較的、異常に気づきやすいことが多いのではないでしょうか。
3. 関係者の対応は? 改善策は?
メーカーや業界団体は、改善を進めていました。しかし、こんな指摘もあります。
【レポート】繰り返される"悲劇" - こんにゃくゼリー死亡事故を"母目線"でレポート (マイコミジャーナル 2008/10/01)
こんにゃくゼリーでは95年から96年に8件の死亡事故が発生。その後97年から04年は8年で3件と減ったものの、05〜07年の3年で再び増加してきている。
さらに表示を徹底し、形を小さくしたり、硬さを抑えれば、より改善されるかもしれません。しかし、後発メーカーが安易に似たような製品を作り、配慮に欠けたものを売ってしまう事態も起きているようです(これはシュレッダー事故の際にも指摘されていました)。業界団体が努力しても、その辺はなかなか難しいでしょう。
4. 製品のベネフィットは?
「リスクとベネフィットの対比で考えなきゃ」というのは、常々気にしていることです。で、「ベネフィットは?」と考え始めたときに、ぼくはうーんと考え込んでしまいました。
もちやフグのように伝統食品なわけでもない。ご飯やパンのように主食なわけでもない。
ダイエット用に、といっても特定保健食品でさえない。ある種の「機能性食品」ではあるのでしょうけれど。
習慣性があって、なくなると困る人がいるだろうというわけでもない。
経済効果はあるでしょう。伝統食品であるこんにゃくを守る、という側面はあるかもしれない。でも、こんにゃくが歓迎されなくなった、なんて話はあんまり聞かない。
なんかベネフィットがかなり小さそう。
【18:45追記】はてブから「体調管理、整腸にこれほど役にたつ商品はない」との声もあり。ほかにもベネフィットはあるのかも。また、マンナンライフは「蒟蒻畑」のようなポーションタイプの製品の製造を一時中止するけれども、ウィダーインゼリーみたいな「クラッシュタイプ」の製品を新発売している。これは事故も起きにくそうだ。量と食感の点以外では代替が効くかな?【追記ここまで】
おまけに、誰がそのベネフィットを受け取るのか、と考え始めたら暗くなってしまいました。最初に思い浮かんだのが「ダイエット志向の若い女性」だったせいです。偏見入ってます。mixiを見ても、男性もたくさん怒ってましたから、偏見です、はい。
というわけで、この食品の愛好家、と言い直しましょう。あとはメーカーやこんにゃく農家、流通に関わる方々。こんなものでしょうか。
老人は、多くの場合、危険を知らずにうっかり買うとか、自分はだいじょうぶと思ったとか、もらって食べるとかでしょうか。幼児は自分では買いませんが、どちらも「おいしい」「太らない」というのが、状態によってはベネフィットかもしれません。一部の病人など、食が進まない人で「これなら食べられたのに」と言っている人もいましたから。
しかし、「なくなると困る」「代替品を探すのも難しい」という程に大きなベネフィットを受けている人というのは、いったいどれぐらいいるのでしょう。愛好家とメーカーぐらい?
【10/09追記】コメント欄で、「おいしい、好きというベネフィットで十分では? 好きというベネフィットを低く見過ぎでは?」といった指摘をいただいています。その点については、次のエントリで考察しています。
また「嗜好品のベネフィットと危険の対比とう考え方自体に違和感がある」というご指摘もいただきました。これは……そういわれると、「嗜好品をこういう形で危険評価すること自体がうまくないのかもしれない」とも思います。【追記ここまで】
5.【参考】諸外国では?
EU、韓国、米国ではゼリーへのこんにゃく使用をすでに禁止しているようです。
消費者の自己責任?
mixiでそんな指摘があったので、その点についても考えてみます。
受益者と被害者のギャップをふまえてみると、構造としては、なんだかタバコの副流煙による第三者の健康被害みたいです(と、喫煙者である自分の首も締めてみる)。未成年者がジュースと間違えて缶入のアルコール飲料を飲んで急性症状を起こしたとか、そんな話も思い出します。
なにしろ、ものはお菓子です。フグやタバコやアルコールとは違います。ウイスキーボンボンや辛いお菓子、苦みのある食べ物などのように、「子どもや老人には向かない、不適切」というレベルでもありません。「子どもや老人には危険なお菓子もある」なんていう常識があるとすれば、まさにこの製品のために必要な常識なのかもしれません。
受益者自身が危険に遭遇する可能性はかなり少なく、被害者の多くはうっかり(不注意)とか誤認といった事故、まさにアクシデントとしてこの食品の危険に向き合う羽目になっているのではないでしょうか?(そうだとすると、やはり根絶は不能だということも言えそうです)
さて、こうした事故を「消費者の自己責任だ」と言えるのでしょうか? ぼくは「馴染まないなあ」と思うのです。
結論めいたものを出してみる
ここまでをまとめると、「こんにゃく入りゼリーは、一般にハザードも小さく、リスクも低い。改善も進められており、ほとんどの場合あまり危険とはいえない。しかし、その小さいリスクやハザードに対しても、ベネフィットが小さい疑いが強い。また、被害者は、うっかりミスや誤認などのために事故に遭遇していると推測できる。そのミスや誤認も、仕方ないと考えられる部分もある。さらに、被害者のほとんどは受益者ではない。自己責任論は適用できないのではないか」といったところです。
嗜好品の規制なんていうのは、ぼくの好むところではありません。また、ゼロリスクを目指すことのむなしさも、これまでこのブログで何度か採り上げてきました。
しかし、こう見てくると「わずかながらでも犠牲者を出しながら、この製品を作り続けること、売り続けることに、どういう意味があるの?」と思えてなりません。ぼくが愛用者ではないから、というバイアスもあるかもしれません。でも、ちょうどいい比較対象がないぐらいに「受益者と危険に直面する者の不均衡が大きい」と思えてならないのです。
#誰か、こういう極端な不均衡があるものを思い出したら、教えてください。
【10/09追記】次のエントリのコメント欄で、「受益者ではない人ばかりが被害者というのは事実誤認ではないか」といった指摘をいただいています。それについては、同じくコメント欄で。【追記ここまで】
今回のマンナンライフの決断は、業界団体への事故の報告義務を怠ったことも理由かもしれません。しかし、それがなくても、作るのをやめちゃっていい製品だったのではないでしょうか。やめなければならない、やめるべきだとまで言える理由はぼくにはありません。でも、最大手がやめてくれるという判断には、ほっとしました。
◆
今回のmixiでの反応は、否応なく「サイレント・マジョリティ」という言葉を思い起こさせました。ときおり何千もの日記を集めるニュースはありますが、今日の午前2時過ぎから12時間あまりで5000件オーバー(17時36分現在で6,739件)というのは、かなり多い数字だと思います。
しかもマスメディアの論調とは、まったく逆な意見が多いのも驚きました。愛好者が多いのでしょうか、それとも「肥大し過ぎた消費者意識への違和感」「モンスター消費者的なものへの嫌悪感」でしょうか。
販売自粛・禁止論議が盛んですが、食べ物による窒息死亡事故が年4千件ある事を取り上げる所は少ないですね。
食べ物による窒息事故は交通事故並に起きると想定して、起きた時の応急処置を取り上げては如何でしょうか。
http://www.fsc.go.jp/sonota/yobou_syoku_jiko2005.pdf
僕は蒟蒻ゼリーは割と好きな30代男です。やはりベネフィットは「美味しさ」ですよね。それしかないけど、それで十分という気もします。
亀様の記事を読むと、あくまでも危険と利益を天秤にかけて本騒動の発火点を探っているような印象を受けました。
でも、僕が今回の騒動における発火点はこっちだと思います↓
http://blog.livedoor.jp/dqnplus/archives/1179159.html
http://www.zakzak.co.jp/top/200809/t2008093036.html
社会秩序を作るうえで本来は最終手段である"法的処置"。それを安易に振り回されることへの反発心がこうした記事に煽られ、その動きに応じるように「販売中止」が来た。
だから細かいリスク評価がどうなどの議論を飛び越えて、不安感が爆発したんではないでしょうか?
GIGAZINEの記事はつっこんでくれと言わんばかりの無茶加減ですが、餅が!フグが!とぶつけたくなる気持ちはわかります。
「餅のほうが」発言の裏側にあるのは、「食べ方の変更、危険性の認知などの浸透・改善指導を飛ばして販売禁止とかダメ政治の暴挙だろjk>野田さん!」というキモチ。
これがネット爆発のエネルギーだと思います。
つまり蒟蒻擁護派のほとんどはリスクとベネフィットを真剣に測ってないし、そこを一番重要と見てないと思うのです。
たぶん。
長文すみません。記事は楽しく読ませていただきました。
純粋に「蒟蒻畑が好き」っていう人もいるわけだよね。ゼリーより固くて、グミより柔らかい、あの食感は独特だから。ベネフィットの第一は「好き」だと思うのですよ。「好き」というベネフィットをことさらに低く評価する理由はないのではないかなあ。好き嫌いというのは、大きな動機だから。
じゃあ、タバコなんかの嗜好品と同じ扱いかと言われると、違うでしょう。タバコの発癌性は明らかだし、副流煙による他人への危害もある。また、実際問題として習慣性もあるわけです。
それに対して、蒟蒻畑の危険性って、ほとんどないじゃないですか。少なくとも、注意しさえすれば大丈夫な程度のものです。
それが「好きだから食べる」という人から奪わなくてはならないほどのリスクか、ということじゃないでしょうか。
僕は、「子供とお年寄りには食べさせるな」というでっかい注意書きで済む話じゃないのかという気がします。実際、アルコール入りのお菓子など、「子供には食べさせるな」というお菓子はあるわけでしょ。
この件、僕には利益と危険の不均衡が大きいという気はしないんですが。
「好き」という利益の見積もりが低すぎると思うんだよね。
私も、ちょっとベネフィットの方が解らなくて。
うーん、ちょっと具体性が違うかも知れませんけれど、「ダガーナイフ」の騒動を思い出したんですよね(実用性や嗜好の問題として、です)。
ただ、いくつか見られた、餅との対比なんかには、違和感を持ちました。食品としての捉えられ方が違うのに、そういう比較をして良いものなのだろうか、と。
後、GIGAZINEの記事は、頻度をそのまま出して○○倍危険、とやってる時点で、かなりダメ記事だと思いました。こんにゃくゼリーでの事故の確率が低いのを示すためにああいう書き方をするのは、仮にそれが事実だとしても、おかしいと思います。
ちなみに、蒟蒻畑の袋には「子供とお年寄りは食べるな」という注意書きがあります。
サイズが大きいかといえば、絵は老眼でも問題なく分かりますが、字は少々読みにくいのかも。老眼以外の人ならば「こんなにはっきり書いてある」と思うレベルではないかと思います。
http://www.katsuster.net/img/diary/20080130_konyaku.jpg
ほんとうに勉強になります。
新しいエントリを上げましたが、そちらでは応答し切れていない点について。
予防的観点だけではなくて、起きたらどうするという知識を広めるのも重要ですよね。ただ、幼児の誤飲・誤嚥事故とか、老人の嚥下障害に由来する事故は、かなりの割合で遭遇するという認識は、家庭レベルでも行き渡っていて、そういうときにどうするとよいのかもけっこう知られていると思います。
困るのは、一般の誤飲・誤嚥事故の場合は、窒息に至るケースはそんなにないのかもしれない、ということです。5、6分が勝負なわけですよね。ポーション型こんにゃく入りセリーの場合、事故が起きると高い比率で窒息らしいので、また違う形の広報が必要なのかもしれません(なんか、予防と変わらなくなっちゃうのかな?)。
>今回の件のような嗜好品のベネフィットとリスクと対比するというのは違和感があります。
というか、そんな対比は原理的にできない、ということなのかもしれません。もはや、人生観の問題なのかも。
「こんにゃくゼリー好きです」さんのおっしゃるとおりのことなのかもしれません。愛好者が意外にいたんじゃなくて、規制っぽい動きにメーカーが「事なかれ」的に過剰反応した、と見えているのかもしれません。
そこは、なんともはかりきれないところですが、それにしても大爆発でびっくりしたのでありました。
あと、今気づきましたが、自分の「好き」をわずかな被害者の存在を理由に規制されるように感じて、すごく反発するということもあるのかもしれませんね。
すげえ。
こんばんは。ベネフィットの件で。
マンナンライフのHPからの引用です。
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こんにゃく芋は毒芋といわれ、無処理のこんにゃく粉を使用してゼリーを作ると、生臭さのあるトリメチルアミン態窒素や残留農薬、二酸化イオウなど、体に有害な成分が含まれており、そのまま使用すると、臭いやエグミ、最悪の場合には喉に炎症を生じます。
当社では、独自の方法で精製し、有害成分(残っていると口の中がピリピリします)を完全に除いたものを使用しております。他社ではこの精製技術が真似できないため、こんにゃく粉を少ししか入れられず、離水が起こり、カップを開けた時に水が飛び散る元となりますが、当社の蒟蒻畑はほとんど離水(水分が分離すること)しません。
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家では作れないタイプのおやつだと思いますし、そのための技術促進もされてたようですね。お菓子の本を長年編集してますが、「こんにゃくゼリー」なるものを紹介したことはないですし、見たことはありません。あと「こんにゃく」そのものの消費促進という意味では、かなり役立っていたお菓子なんじゃないかと思います。生産者は残念でしょうね。