非情に詳しい考察に感心しました。
しかし、
>ポーション型こんにゃく入りゼリーは、特別危険な食べ物というわけではない。
というのには、納得できません。
子供が食べると窒息死するお菓子というのは、十分危険なものだと思います。
Posted by ゴンザレス at 2008年10月10日 15:10
ブログを拝見しましたら、元製造業の方なのですね。「自分だったらすぐにやめるぐらいの危険度だ」とお考えのようです。その判断は、よく理解できます。製造業の方が(「元」であっても)、そう考えてくださるという事実はいろいろな意味で心強いです。
すでにTAKESANさんからもご指摘がありますが、ここまでの記事で書かれているのは「まったく危険はない」という主張ではありません。「はなはだしい危険」はないという程度の主張です。裏返せば、一定程度の危険はあるのです。どのような条件で「看過されるべきでない大きな危険」「法で規制すべき危険」とみなすかは難しいところですが、そこがまさに論点のひとつです。
そういうわけで、まずは「どれぐらいの危険か」ということから書かせてください。ゴンザレスさんも「十分危険」とお書きになっておいでなので、上記の視点については織り込み済みなのかもしれないとも思いつつ、これまでのエントリではあまり具体的な危険性に踏み込んでいなかったので。
ここまでですでに3つの記事があり、それぞれも長い記事なのですが、今回書いてみたら、またさらに長くなってしまいました。しかたないので3つに分けてアップします。
こんにゃくゼリーは本当に危険か3:ふつうに危険なお菓子(本記事)
■厚労省の調査で、およその傾向がわかる
■窒息事故が起きやすい4種のお菓子
■こんにゃく入りゼリーは「ふつうに危ない」
■「ふつうに危ない」って、どれぐらい危ないの?
■こんにゃくゼリー特有の危険性はないの?
こんにゃくゼリーは本当に危険か4:「ふつうの危険」への対策を考える
■どうすれば子どもでも安全に食べられるの?
■法規制は必要がないのか?
■なぜ事故が起きるのか?
■「こんにゃく」に過大な期待をしていないか?
■では「自主規制しろ」「法規制しろ」と求めるのはおかしいのか?
こんにゃくゼリーは本当に危険か5:危険評価と個人のバイアス
■クラフトマンシップ、あるいは道義心の問題
■危険評価(有用性評価)とは別の「個人的なものさし」
■「個人的なものさし」からは、なかなか自由になれない
■最後に
端的に言っちゃえば、理の問題として「危険性は低い。消費者に支持されているということは社会への一定の貢献度はある。一律に禁止とか『やめろ』とまで言うのはアンバランス」が第一点。それとは別に情の問題として「やめて欲しいとか続けて欲しいといった『気持ち』が、危険性や有用性の評価には合致しないことだってある。その辺は立場にもよるのだろう。けれど、それを危険性評価に折り込もうとすると、どうも話がおかしくなる(なってた)」、最後に「情の問題といっても、必ずしも『非合理な判断』というわけではないだろう。職業意識といったものも関係していそうで、それはそれで必要な判断軸だろう」といったことです。
こうやって要約してみると、すんげえ当たり前の話ですね。それなのに長くてすいません。
言うまでもなく、1や2の続きなんですが、軌道修正をはかっている部分があります、1、2で、「不均衡がぁ」とこだわっていたのは、どうも最後の方「5」で書いているあたりの問題だった、と考え直しております。
危険度が低いのは百も承知だ、という方は、この「3」はすっ飛ばして「4」の「なぜ事故が起きるか」あたりからお読みいただくのがよいかもですが、「もちやご飯と比べて」なんて考えている方は、できれば、この「3」はもちろん「1」の「1. 製品(こんにゃくゼリー)の危険性は?」にもお付き合いいただけたらうれしいです。そんなもんと比べてもしゃーない、ってことがおわかりいただけるかも。
【お礼とお詫び】
以下のテキストには、コメント欄などでご指摘・ご教示をいただいた知見をたくさん含んでいます。ご指摘くださったみなさん、本当にありがとうございます。いちいち「誰それが」なんてほとんど書いていませんけど、たぶんコメント欄なんかを見るとだいたいわかります。それで許してください。
ちと拙速と思いつつ、また連載では使わないことになりそうなのだけど、どうにも気になる話なのでガツガツと書いてしまいました(我ながらバカ)。今日アップしないと当分ムリめなのでエイヤです。そんなこんなで、このあと数日はコメント等に反応ができないと思います。あわせてご容赦ください。言い訳がましくて恐縮です。
また、それでもよろしければ、コメントを残していただければ幸いです。
■厚労省の調査で、およその傾向がわかる
これまでのエントリなどでも示しましたが、厚労省に「食品による窒息事故に関する研究結果等について」という調査があります。2006年の1年間で消防本部と救急救命センターが把握した事例を対象にした調査です(以下、数値はいずれも消防本部、救急救命センターの順に示します)。今年5月に発表されました。
食品による窒息事故では、ここ数年は毎年4000人以上が死亡していますが、この調査で把握された事例数は、724例(死亡65例、重傷227例)と603例(死亡378例、救命257例、不明9例)です。両者で傾向が異なるのは、偶然の要素以外に、救急救命センターには一般の病医院で処置が上手くいかなくて回ってくる患者がいるためもあると思われます。
また、全国をカバーしたものではなく22%の人口カバー率とのことです(全数調査ではありませんがサンプルとしては十分でしょう)。単純計算では、全国にすると4倍程度の事故数があると推測できますが、両者の死亡数を合計して4倍しても1800にもなりません。ですから、暗数がかなりあります(発見時に死亡していた、自家用車等で病院に運ばれたが死亡した、そのため救急のお世話になっていないといったケースが想像できます)。もっとも、これは逆もあるでしょう(大事に至らなかったために救急のお世話にはならなかった等)。ですから、実数の予測が困難なことは、ここではあまり気にしないことにして、あくまでおよその傾向を探っていきましょう。
■窒息事故が起きやすい4種のお菓子
菓子類の窒息事故数を見ると、2006年には「あめ22例、団子8例、ゼリー4例、カップ入りゼリー8例」、「団子15例、あめ6例、カップ入りゼリー3例」の事故があります。
事故数(死亡数ではありません)が、数例から多くて二十数例であること、1年間だけの調査であることから、より長期の調査を行えばバラつき方が変わる可能性があり、一定の確かさしか読み取れないことには注意が必要です。
カップ入りゼリーの年齢層別事故数は、「1〜4歳2例、65〜79歳2例、80歳以上3例」、「5〜9歳1例、65〜79歳2例」です。事故全体の年齢分布は「65歳以上が76.0%、10歳未満が12.0%」、「65歳以上が82.4%、10歳未満が4.3%」ですから、大きな矛盾はありません(あめ、団子などの年齢層別の数値はないようです)。高齢者や10歳未満の子どもは窒息事故を起こしやすく、特に高齢者は子ども以上に注意が必要なわけです。
上記を見てまず気づくのは、4種類とごく少ない種類の菓子しか事例がないことです。詳細に確認したわけではありませんが、だいぶ伝統のあるものでも、たとえばビスケットもマンジュウもセンベイもモナカもありません。
別に省略されているわけではないようですから、「あめ、団子、カップ入りゼリー、ゼリー」の4種類の菓子は、他の菓子類に比べれば窒息事故を起こしやすい菓子、「ノドに詰めやすい菓子」だと言ってよいでしょう(もちろん、ほかにもあってたまたま調査結果に出ていないということも、あり得ないとはいえません)。経験的にも納得がいくのではないでしょうか。あめを口に入れたままふざけたりしゃべったり、団子をあわてて頬張ったりして、ノドに詰めかけた経験があったり、そんなシーンを物語などで見たことがありませんか?
■こんにゃく入りゼリーは「ふつうに危ない」
4種のなかで、こんにゃく入りゼリー(ここではカップ入りゼリー)がどれぐらい危険かを考えるには、事例数を比べるだけでは十分ではありません。あめや団子よりも食べる頻度が多いか少ないか、といったことも検討される必要があります。こんにゃく入りゼリーの市場規模は2007年で110億円程度だそうですが、「飴菓子」は1,755億円にのぼります(平成18年分。全日本菓子協会・日本の菓子推定生産量。)。団子については統計が見つかりませんでした。
「飴菓子」の場合、おそらく水飴状のものも含むでしょうし、金額での比較だということにも注意が必要です。しかし「飴菓子」とこんにゃく入りゼリーの売り上げ金額がこれだけ差があって「あめはこんにゃく入りゼリーよりも口にする頻度がずっと少ない」と考える理由は思いつきません。おそらく、金額の差から予想されるように、あめを食べる機会の方がずっと多いのでしょう。
ここまでの読み取りでわかることは、「こんにゃく入りゼリーは、いわゆる『ノドに詰めやすい菓子類』と同様に、高齢者と小さな子どもには危険性が高い」ということです。特別に「こんにゃく入りゼリーは、あめや団子などよりも危険だ」と考える理由はありません。
上記は飽くまで「この調査から推測できる範囲のこと」ですが、明らかに食べる頻度や量が異なるご飯やパン、もちなどと比較するよりは、だいぶ実態に即した推測のはずです。
■「ふつうに危ない」って、どれぐらい危ないの?
こんにゃく入りゼリーの事故がこの程度で済んでいるのは、表示の改良や、情報がゆきわたったためもあるでしょう。その点では、「あめや団子は喉に詰まらせやすいだろうという知識は、ひょっとするとこんにゃく入りゼリーよりも行き渡っているかも知れない」ということも考慮する必要があるでしょう。
これまでの報道から割り出せる「15年間に17人の死者」等という数字からは事故数はわかりませんでしたが、上記の調査からおよそ推測できることになります。人口カバー率で22%の状況で、消防本部で8例、救急救命センターで3例。前述のように、さらに多くの事故が起きていることはほぼ確実です。ただ、ここで数値を根拠なく操作しても無意味ですから、11例のまま計算しますが、その約4倍で40例以上は事故が起きていることになります。
こんにゃくゼリーで少なくとも年間40例以上の事故がある可能性があると聞くと、死亡事故として聞かされている数字とのギャップもありますし、「これは多い」と感じるのではないでしょうか? しかし、元の数字が「ノドに詰めやすい菓子類の事故の数」としては、特に高いわけではないことを思い出してください(あめや団子の数字を同じ理屈で4倍すると、もっと多いのですから)。また、これであめの方が危険だとかいう評価をしても,意味はありません。硬さがあったり粘りがあったりする食品というのは、ある程度は危険なものなのだ、それは一品目について年間数十件から100件以上も事故を起こしている可能性があるのだ、ということがわかっただけです。
■こんにゃくゼリー特有の危険性はないの?
こんにゃくゼリーには、特有の危険性があるのではないか、という議論がしばしば見られます。
もちろん、食品の特性という意味でも、商品の特性という意味でも「こんにゃくゼリー特有の危険性」がないわけはありません。たとえば、危険性表示がされ、死亡事故がこれだけ報道されていることを見ても明らかです。さらには、それでもあめや団子と似た程度には被害が出ているという状況は、重く見る必要があるかもしれません(ないかもしれません。たとえば前述の「あめや団子は、老人や小さな子はノドに詰まらせやすい」などといった「一般常識」のように、他の食品にも特有の事情はあります。ですから、大きな差がないとかいささか差があるということだけでは、なんともいえません。この段階では両方の可能性を含みます)。
マンナンライフの製品についてはかなり安全だといった声も見られますし、別にそれが間違っているとも考えていませんが、同社のシェアは3分の2ですから、残り3分の1である他社の製品も含めた整理が必要でしょう。
消費者センターが2007年にこんにゃく入りゼリーの調査をした際には、次のように発表しています(一部抜粋)。
- 過去にテストを行ったときより非常にかたく弾力性の強い商品群がみられた
- 普通のゼリーと比べて一目で違うと分かる形状のものはほとんどなかった
- 事故報告のあったこんにゃく入りゼリーの最大径や体積はばらついていた
- 子どもや高齢者に与えないように注意する表示は6割以上の銘柄では見られなかった
- 子どもや高齢者に与える場合、小さく切って与えるよう注意を促す表示は7割以上に見られた
http://www.kokusen.go.jp/news/data/n-20070705_1.html
かつては、こんな例もありました。
「グルコマンナンなどを使用した、こんにゃく入りゼリーと同じような商品特性を持った製品がこんにゃく入りとは表示されていなかった」
「柔らかめの製品のため、危険表示をせず、むしろ安全性を強調していた」
2007年には、こうした例はなくなっていたのかもしれませんが、かつてよりも「非常にかたく弾力性の強い商品群がみられた」と書かれてているからには、これからも「のど元過ぎれば」ということがないとは言いきれません。
全体を見ると、業界のさらなる努力が必要ということは確かなようです。マンナンライフ社が製造中止を発表した際に「早急には改善できないから中止にする」等と語っているそうですが、それは「業界全体を一社で変えることはできない」という意味も含むのかもしれません。また、マンナンライフが製造中止に踏み切っても、劇的な効果は望めない可能性もあります。
⇒こんにゃくゼリーは危険か4:「ふつうの危険」への対策を考えるに続く