「こうすれば、子どもやお年寄りでも安心」という食べ方は、いまのところちょっと見当たりません。かつて消費者センターは「小さく切って」と言っていた時期もありましたが、現在はそれでもダメだと修正しています。
あえて強調すると、こんなことになります。
- ポーション型こんにゃく入りゼリー(および類似商品)は、あめや団子と同様に、子どもやお年寄りを窒息させ、死なせる可能性があります。
- 子どもやお年寄りが望んだり、なにかの理由で与えたい事情があっても、救護の準備と事故の覚悟なく与えるべきではありません。
- 小さく切っても、安全とはいえません。
- 凍らせると、危険が増します。
- 袋から出して保存する場合、危険表示がわからなくなりますので、厳格な管理が必要です。
- 子どもやお年寄りには危険表示がわからないことがあるので、手の届くところに置くのは危険です(勝手に食べて事故になった例があります)。
アルコールやカフェイン、タバコなどは、薄めれば子どもやある種の病人にあげてもだいじょうぶというわけでもない、子どもが不意に飲み込んだりそうなものは、子どもの手が届くところに置いてはいけないという構図と同じだと理解すればよいのだろうと思います。
消費者センターや厚労省の調査を見ると、こんにゃく入りゼリーには「口のなかで自然に溶けたり、崩れたりしない」「ノドなどにはりつきやすい(口中で付着性、粘性が高くなる)」「付着性、粘性は凍らせると、なお高くなる」という特徴があるようです。最初と最後の「口のなかで自然に溶けたり、崩れたりしない」「付着性、粘性は凍らせると、なお高くなる」という特徴は、その他のゼリーとの違いとして記されています。
こうした特徴のために、ある程度の大きさの固まりで提供されている製品は、「子どもや高齢者に与えては危険」ということがわかるようにしなければならないわけです。
スプーンですくって与えたり、切って与えても事故を起こした例はいくつか報告されています。そのままで確実に飲み込めるサイズまで、刻むか砕くなどの必要があるでしょう。そして、それでも口中で溶けはしないので、変なところに入ったり、それで呼吸障害につながるといった事故は起き得ます(そのような食品は、ほかにもたくさんあるでしょう。それと同じだと考えてください)。
いずれにしても、子どもやお年寄りに食品を与える可能性のある方は、あめや団子などの、比較的硬くて飲み込みにくいお菓子と同程度の危険があることは承知しておく必要があります。親戚や職場など、子どもやお年寄りに接する機会がある方は、理解しておいく必要があるでしょう。
■法規制は必要がないのか?
本当に、上記が「子どもやお年寄りには『ふつうに危険』なお菓子」の一般的な扱い方かというと、微妙なところです。凍らせると危ない、とかね。しかし、あめでも団子でも同じようなものではないでしょうか。あめだって小さくしても、気道に入ったら危険ですし、団子を凍らせる人はいないでしょうが、口のなかで噛み砕くのが困難になるのは同じですものね。
それでも、ぼくは当初から「法で規制しなければならないほど大きい危険」とは考えていません。多くの場合は、容易に避けられる危険だからでもありますし、本来、このレベルでの安全確保は、業界の努力でクリアしてしかるべき内容と考えているからでもあります。法を制定して、強制的に遵守させるには一定のコストがかかります。被害状況と業界の努力などを勘案して考えるべきでしょう。
たとえば、今後も「表示などで業界標準をクリアしない商品が出回る」という状況が続くようであれば、危険が増大する可能性があります。それを業界内の自主規制で防げないというようなことになれば、硬さや大きさ、表示などの仕様について法的な規制を設ける必要が出てくるかもしれません。
また、現在でも年齢規制はあってもよいのかもしれません。
■なぜ事故が起きるのか?
先に挙げた、高齢者には馴染みの少ない特性の食品といったことを含めて、おそらくは一般化して語れるような理由もいくつか思い当たります。登場して10年と新しい食品ですし、保護者にしても、子どもを預かった人にしても、危険の度合いや食品の性格をよく理解していない、といったことはありそうです。よく話題になる「小さな子ども」という表現から、7歳ならだいじょうぶだと思った、などという先入観があってもおかしくないでしょう。
事故例の多くが例外に属する(ふつうでは起きない特別な状況があった)可能性はありますが、ある程度の事情がわかっている死亡事故の報告を見ると、すべてが例外的な事例……とまでは言えないとも思います。
おそらく食品を与える側の不注意もあるでしょう。子どもが容易に手に取れたといった管理不足がったこともわかっています。誤情報があったケースもあるに違いありません。たとえば商品によっては注意表示がなかったかもしれません。消費者センターも「切って与える」といった指導をしていた時期があったので、そのためもあるかもしれません。ケースバイケースという部分と、先の「新しさによる理解不足」の合わさった結果ということになりそうです。
あるお店では、こんにゃく不使用のカップ入りゼリーは見かけなかったというお話もありました。それもちょっと気になるところです。販売店の方には、ぜひ「子どもやお年寄りにも安全なゼリー」という選択肢を残して、わかりやすく展示いただきたいと思います。
コメント欄で「ベネフィット(恩恵、利益)は主に『おいしい』『好き』だ」という指摘もいただいています。であれば、購入する人,与える人の「おいしい」「好き」が、それを分けたいという欲求につながっている可能性もありそうです。
なお、製品単体を一見しただけではこんにゃくを含まないカップ入りゼリーと見分けにくいという点も気にはなります。しかし、ほとんどの場合は、「どっちかわからなければ、安心な方」と考えるとまでは言えないでしょう。それは、こんにゃく入りゼリーの存在を知らないか、その危険の程度や性格を知らない……という問題に含まれると言えそうです。
■「こんにゃく」に過大な期待をしていないか?
ただ、気になっているのは、きくち君の指摘にあった点です。なにか「こんにゃく」への期待値が「わざわざこんにゃくゼリーを選び取らせた」といった、誘発材料になっていはしないか、という点が気になります。
こんにゃくゼリーは低カロリーという認識が広くあるようです(実際は必ずしもそうではなく、「製品による」ということのようです。多くの糖分を含む製品には、それなりのカロリーがあるわけです)。また、食物繊維をたくさん含むので整腸効果がある、という話もあります。
別にそれがウソだというつもりもないのですが、なんとなく「だから、こんにゃく入りゼリーは体にいい」というイメージになって、それが子どもやお年寄りにこんにゃく入りゼリーをあげるという行為につながっていないか、ということです。
先の「利点」は、いずれも特に体にいいというほどのことではありません。子どもやお年寄りに、もしもゼリータイプのものをあげたいということでしたら、固まりではない、口の中で粘らないタイプの製品を選ぶべきでしょう(袋入りというかチューブ入りというか、ウィダーインゼリーのような製品)。また、カロリーが気になるようでしたら、カロリー控えめの製品をお選びください。
カップ入りゼリーでもこんにゃく不使用のものもあるはずなのですが、その安全性はよくわかりません。こんにゃく入りよりは安全なのだろうとは思いますが。また「ゼリーでの窒息事故も報告されている」ということもお忘れなく。
すでに何度も書いているように、子どもやお年寄りに安全に「ポーション型こんにゃく入りゼリー」をあげることは、かなり難しいのですが、そこに「体にいいから」「切ってあげれば」などという「誤解」が入り込んでいるとすれば、これは不幸な思い込みです。
■では「自主規制しろ」「法規制しろ」と求めるのはおかしいのか?
これはおかしくないのではないか、と考えます。先ほどぼくはコスト等を考えると、法規制の必要があるとは考えないと書きましたが、絶対必要とまでは言えなくとも、あった方がいいという意見も理解できます。というのは、いろいろな立場があり得るからです。
消費者センターでは法規制を求めています。これは現行法では「逸脱した製品を取り締まる省庁も法律もないから」です。また、ある記事ではセンターの方が発言が掲載されています。
「とにかく何らかの法規制を」と話すのは国民生活センターの消費生活専門相談員の小坂潤子氏。「これだけの死亡事故がほかの食品で起きたなら、当然自主回収になったり、販売停止になったりしているはず。こんにゃくゼリーには規制する法の枠組みが欠けている」目安として大変に有用な見識だと思います。メーカーが十分に責任を取らず、損害賠償請求裁判で被害者家族と示談などが成立してしまえば、より大きな社会的責任があると考えていてもそれ以上の責任を取らせる方法も法的根拠もない、そのための慟哭とも受け止められます。消費者の安全の番人でもありましょうから、本当に歯がゆい思いをされているのだと思います。
(略)
「元に戻る程度の食中毒やけがではなく、指の切断や死亡といった不可逆性の結果にまでなるようなら、そこにいる保護者や世話をしている人のせいとはいえない。何よりも原因となる製品を製造した側に大きな責任があると考えるべきだ」
【レポート】繰り返される"悲劇" - こんにゃくゼリー死亡事故を"母目線"でレポート(マイコミジャーナル 2008/10/01)
「何らかの法規制」をであり、「自主回収になったり、販売停止になったり」と言っていても、「販売禁止になって当然」などとは言っていないという点も見逃せないでしょう。
彼らの職業を考えれば、ひょっとすると、ぼくらの知らない情報をもっているのかもしれません。たとえば、それぞれの事故の詳細や、メーカー側の主張を具体的に知っているなんていうことはありそうです。その内容次第では、ぼくだって危険評価がだいぶ変わるかもしれません。彼らの職業的専門性に敬意を表するという意味でも、「一定の法的な枠組みが必要」「メーカー責任を問えるような仕組みが必要」ということにまで反対するつもりもありません。
「カップ入りこんにゃくゼリーは、ただちに販売停止(販売禁止)にすべきだ」という結論までは、自分の知っている範囲の情報からは導き出せない、ということです。
⇒こんにゃくゼリーは危険か5:危険評価と個人のバイアスに続く