2008年12月27日

公立図書館の不遇:誤解増幅装置としての報道

先ほど、図書館とニセ科学と過去の誤謬(火薬と鋼 2008-12-27)を読んだ。

いろいろ考えさせられるエントリ。
ただ、ここでは先方の本題からズレる話。

このエントリがきっかけでいろいろググってみたら、先の堺市立図書館の件では、メディアはまともな解説記事を出すチャンスがあったにも関わらず、ほんとにヤジウマ記事ばっかり出してろくでもない効果しか上げていなかったらしい……ということがわかる事例が、ぞろぞろと出てきてしまった。

まずきっかけは、冒頭のエントリ中に出てきた「図問研」という団体名。図書館問題研究会の略称。これをググってみた。

図書館問題研究会
http://www.jca.apc.org/tomonken/

そしたら、あったのです。堺市立図書館のBL本の扱いに関するコメント。というか、もっと直裁なものが。
「質問状」の日付は2008年10月8日付となっており、11月14日付の「要請」には
回答期限が過ぎた現在も回答をいただいておりません。本来ならば回答を踏まえて要請すべきところ、事態の重大性に鑑み、要請いたします。早急に質問状の回答を寄せていただくよう重ねてお願いいたします。
と書かれています。

論旨は明快。一部を引用する(短いから全文読んでね)。
 今回の措置は、一市民の投書に対する過剰反応であり、外部の圧力に屈した結果であると受け取らざるを得ません。貴館は「図書館の自由に関する宣言」に基いて「BL図書の処分」を要求した市民に対し説明を尽くし、理解を求めるべきでした。
 利用者の多様なニーズに対応するため、図書館が提供する資料にも多様性が求められます。図書館の特定の資料はある利用者にとっては不快かもしれませんが、そのことを理由にその資料を排除することは許されません。今回の措置は、あらゆる資料要求にこたえ、すべての図書館資料を国民の自由な利用に供することを謳った「図書館の自由に関する宣言」に反するものであり、容認できるものではありません。
 また、図書館(員)は青少年の親でもなければ、道徳の教師でもありません。有害図書でもない資料に対する提供制限は、青少年の知的自由と図書館資料へアクセスする権利を侵害するものです。



昨日のエントリ「理想の図書館に反社会的な本はあるか」で、ぼくはこんなことを書いた。
たとえば上記[注:日本図書館協会青少年社会環境対策基本法案についての見解など]を引用し、「ぶっちゃけ、図書館というのは基本的にどんな本でも所蔵します。リクエストがあれば買います。内容によって開架にするかどうか、子どもに見せてよいかなどといった検閲はしません。図書館とは、そういうものなのです。長い長い議論を経て、そうなってきたのです」などという解説をするメディアは、この間見当たらなかったし、いま探しても見当たらない(ぼくが見つけていないだけ?)。
[略]
この辺、どこかでちゃんと言及されているのでしょうか?

言及は、ちゃんとあったわけです。じゃあ、メディが採り上げているのも「ぼくが見つけていないだけ」かもしれないと思ったんで、さらに検索。

上記の質問や要請に言及されている記事は、下記のブログぐらいしか見つけられなかった。しかも、ボクと同じ昨日(T^T)

BL読みじゃないけどなんか腹立つ。(枯れ木も山のにぎわい。 2008年12月26日)


ただ、上記でわかったのだが、堺市立図書館に対して市民監査請求をされた方たちもおいででした。そっちもたどる。

みどりの一期一会該当カテゴリー(「ジェンダー図書排除」事件)記事一覧

ここでは図問研には触れられていないのですが、監査請求についてはちゃんと記者発表もしていたようです。ちょっとは記事にもなったようで、新聞報道が紹介されていました。

「ボーイズラブ」はだれにとって有害で不適切なのか?/新聞各紙の報道 (みどりの一期一会 2008-11-05)

しかし、読んで見ると、ネジくれ曲がってBL本のことばっかり気にしているものだから、監査請求の基本的な内容さえ事実誤認している模様。新聞などのメディアに図書館の機能等をちゃんと報じてもらうのは、だいぶ先のことになりそうです(泣)。

同ブログの関連記事を読んでいくと、「5000冊以上のBL本」とかいうのもかなり怪しい、過激な、などという話にいたってては、さらに怪しげという話も出てくるのですが、いつものことながらそんな話を新聞で読んだことないし……。「調査報道」とかって、どうなってるんでしょうねえ……。


どんどんたどってたら、11月に議論が再燃した際の立役者は、どうも朝日新聞経由するところのITmediaないしZAKZAKの報道だったんじゃないか、という話が出てきた。

堺市図書館論争 まとめと個人的見解 後・BL問題編(カナタマタコデイズ 2008-11-13)
そしてこの新聞記事からネット上の朝日新聞ニュースにも波及。

asahi.com:朝日新聞のニュースサイト

遂にはITmedia(というかZAKZAK?)でゴシップ化。

「ボーイズラブ」本の所蔵是非、堺市立図書館で論争に - ITmedia News
その中身もスゴイ。表紙に描かれるのは一見少女漫画風イラスト。

だが、ひとたびページを開くと本番も変態セックスも当たり前のキワドイ絡みがズラリ。シチュエーションもガテン系から気弱なサラリーマンまで多種多彩。あらゆる男同士の性生活を描く。

……。

BLレーベルから出版されたBL小説を読んだことがない私でも、これはひどいと言いたくもなります。

内容はもちろん、そもそもニュースの主題が変わっています。

今回は住民側から廃棄の差し止めが求められたというのに、そのことは一切触れていません。

「こーんな本が図書館にあるんですよぉ」という記事になっています。


そしてこれらのニュース???記事をキッカケに、今回早くから注目を集めたエントリ達がこれら。

このITmediaの記事に対する、BL小説読者の立場からの怒りの声です。
あーあーあー、もう……。問題の矮小化というか、ヨタ話化を率先して行う「ヤジウマジャーナリズム」というか……病理ですね、もはや。言論の自由とかの足もとと密接につながっている話だという認識があれば、朝日であれITmediaであれ、ヤジウマ化はしなかっただろうと考えると、基本的に「図書館ってどういうところか」ということを知らないのだとしか思えない。

いや、文化欄とか学芸欄を担当しているような部署というか記者の方々なんかはわかっているのかもしれない。しかし社会部というか、そっち方面の方々とは全然理解が共有できていないという……。科学面でも起きている、いつものことですか、そうですね。とほほ……。


関連して、なかなか頭痛が増すようなお話まで。

ひとつは、「排除するぞ」の人たちの声を拾っている方がいて。

◆堺の図書排除、その後のこと/大阪市立図書館は排除要求を拒絶したらしい/住民監査請求陳述/市の回答(てらまち・ねっと 2008-11-18)
● 他方、排除する人たちも、彼ら的に見ても「問題ある本は5千冊のうちの一部ではないか」ということが分かってきたらしい。
 排除しようとする人たちの掲示板では次のように書かれている。

 「本当は、エロ本を排除して、性表現を伴う青春文学を死守すべきでしょう。『BL』とされた5500冊にも問題ないものは大いにあるはず・・・エロ本をなんとかするためには『BL』に一括で網をかけるほか方法がありません・・・わかるように区分を提示する必要があります。そうすればちゃんとエロ本だけ迫害します。

 どこまでも、いつまでも、排除を続けたいらしい。
先に予想したように、どうしても選別したい人たちというのはいるようで(ていうか、自分で「迫害」ってすごすぎ)。

もうひとつは、公立図書館でアルバイトをしていた方のブログ記事。

公序良俗(Apres la pluie, le beau temps. 2008.12.25)

なんというか、「堺市図書館の対応は、当然なんじゃないの」という感じで。末尾の、リクエストする市民の問題じゃないかという指摘はそうなのかもしれないんですが、途中でこんな話が。
因みに、私がバイトしていた図書館には普通にコミックも置いてあったしBL本も堺市ほどではないがそれなりに置いてあった。
(略)
コミックの場合は職員が内容を確認し、図書館に置くに相応しいものであるかどうかを判断する。明確な基準があるわけではなかったが、過激な性描写及び暴力描写のあるものは基本的に選定外となる(分かりやすい例→花ゆめのコミックスは置いてあるけど、少コミのコミックスは置いていない)。

しかし中身が小説である場合、内容の確認は殆どされていない。(略)仮にBLを規制するとなると、じゃあハーレクインはどうなるの?という問題も浮上する。ハーレクインが良くてBLだけダメということになると、それはそれで同性愛差別だ何だと言われたりするんだろう。ハーレクインなんて普通に開架書庫ですからね。
(略)
週刊文春とか週刊新潮とかAERAとか、週刊誌は沢山置いてあったけど例えば週刊ポストやフライデーなどの雑誌は図書館には置けない。「公序良俗」に反するからだ。

要するに、グラビアの掲載されている雑誌は「公序良俗」に反するので置けない。そういうことである。文学となるとその辺りの判断が難しくなるが、税金で成り立っている公立図書館にBL本が置いてあることには正直違和感を感じていた。
内容によって選ばれるのが当然という理解をされておいでだ。

ぼくの理解では「すべての図書を置くわけにはいかない」からこそ、「じゃあ、どれを選ぶかを考えざるを得ない」ということなのだけれども、そうじゃなくて「公序良俗に反する本は置けない」という理解。

数ヶ月のアルバイトさんにまで「図書館というのはこういうところで」なんていう話をいちいちしてはいられなかろう。でも、この方は「大学の頃4年間図書館でバイトしていた」と書いておいでなのだ。うーん……とうなってしまった。

いや、なんかぼくが夢見がちなだけなのだろう。メディアでメシを食っている人だって、あれなので、いわんやアルバイトの人なんですから、まあね、あの……とほほ。ぐすんぐすん(T^T)


今日読んだブログのどれかで、「図書館は、市民を善導する教育機関ではない」というようなことが書かれていた。そして、「市民もメディアも、実は、市民を善導する教育機関を図書館に期待しているのではないか」という指摘もあった。この指摘は、まさにぼくが昨日書いた危惧と同じものだと思う(素人=ボク辺りが考えることは、やっぱり、すでに誰か専門家が考えていないはずはないのだ)。

こうした機会に、図書館人が声を大にして発言することを、なによりも、メディアが図書館人に適切な発言の場を用意することを、切に願う。

ていうか、メディアはせめて声を上げた人の言葉を、ちゃんと伝えようよ。記者発表に言っても「まあたジェンダー云々のヒステリー連中か」とかって偏見でテキトーに聞き流してたんじゃないのか、とか言われちゃうぞ。ほんとにもう(T^T) 
 
 



タグ:図書館
posted by 亀@渋研X at 23:29 | Comment(1) | TrackBack(0) | 渋研X的日乗 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする はてなブックマーク - 公立図書館の不遇:誤解増幅装置としての報道
この記事へのコメント
関西ローカルの番組でこの話題が取り上げられたときの動画です。
http://jp.youtube.com/watch?v=fNaIZh91UFY
比較的冷静な論調ですがちょっと浅い印象。
結論としては「ゾーニングすれば」ということのようですが。
図書館の役割については掘り下げが足りないような気がします。
Posted by とくめいきぼう。 at 2008年12月31日 04:38
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