2009年03月19日

口臭対策のウソとホント(『MONOQLO』5月号)

『MONOQLO』創刊号、本日発売(amazon)。明日だと思ってたら、20日は休日じゃないですか。

今月のお題は口臭。口臭対策サプリの話や、口臭ってそもそもどんなものなのか、対策ってどうすれば、なんていう話。

monoqlo0905.jpg
ニシワキ画伯、絶好調であります。

本エントリは、記事中で示し切れなかった参照先などについての補足です。記事を読んでいない方には、なにがなにやらな部分が多いと思います。すいません m(_ _)m。

連載では「Term & Topics」って形で毎回脚注を入れているんだけど、今月は盛りだくさんになってしまって、そこに出典の詳細(主にURL)までは書けなかったので、こちらでご紹介。

→【1】シャンピニオン・エキス
国際シャンピニオン研究会によると、シャンピニオン(マッシュルーム)のエキスに悪臭を消す効果のある事を発見したのは(株)リコム代表取締役の浜屋忠生氏。同サイトでは、消臭以外にも多くの健康効果をうたっている。

国際シャンピニオン研究会 http://www.icrg.gr.jp/

(株)リコム http://www.j-ricom.com/

→【2】排除命令が出た
公正取引委員会が7社に対して根拠となる資料の提出を求め、7社とも応じたが根拠と認められる資料はなかったため排除命令が出され、2009年2月3日から4日にかけて新聞テレビ等で報じられた。右の表を参照。なお、公取委は口臭・体臭・便臭以外については言及していない。

報道の一例。
「体臭消える」エキスに根拠なし DHCなどに排除命令(朝日新聞 2009年2月3日)[魚拓
公取委が専門家などに聴いたところ、口臭は口の中で細菌が、体臭は皮膚の汗腺に付着した細菌の代謝物が腐敗することによって生じることがほとんどで、腸内の環境と口臭・体臭に因果関係はないことが判明。業者に広告表示の根拠となる資料提出を求めたが、各社とも合理的な説明ができなかったという。


公取委の資料(2009年2月報道発表資料)
http://www.jftc.go.jp/pressrelease/21index.html#Tuki02


上記記事や公取委の発表資料によると、対象となったのは、下記の7社の製品。
  • 健康の杜 爽臭革命
  • ベンチャーバンク シャンピニオンエキス
  • グリーンハウス 楽臭生活
  • DHC シャンピニオン
  • 協和 シャンピニオンミラクル200
  • デイ・シー・エス スメルナース
  • 原沢製薬工業 さわやかエチケット

しばし各社のWebサイトの変化を追ってみたのが、下記のメモ。

「シャンピニンオンエキスで消臭」をうたう商品に、公取委が「根拠なし」【追記あり】(PSJ渋谷研究所X(臨時避難所) 2009年02月04日)

→【3】提出資料のひとつ
浜屋忠生「シャンピニオンエキスの腸内消臭と生理作用」(1997)。リコム社が公取委への反論に際して提出資料としてリストアップした文献のひとつ。口臭・体臭の改善効果については被験者数も少なく、ダブルブラインドも採用されていない。また掲載誌は学術雑誌ではない。

同資料は、上記7社のひとつグリーンハウスが公開している。
http://www.greenhouse-e.com/champignon.php

掲載誌『FOOD Style21(フードスタイル21)』 (食品化学新聞社)はfujisan.jpでも「食品の機能と健康を考える科学情報誌!」と銘打たれてはいるように(参照)、あくまで情報誌ないし業界誌であっていわゆる学術雑誌ではない。

食品化学新聞社 http://www.foodchemicalnews.co.jp/
月刊「FOOD Style 21」
http://www.foodchemicalnews.co.jp/page/fs21.html

グリーンハウスがこの論文を紹介しているのは、排除命令を受けて作成されたFAQのページから。該当部分の記述は次のようなもの(2009.3.19現在)

楽臭生活の広告表示に関する排除命令について|グリーンハウスオンラインショッピング
http://www.greenhouse-e.com/owabi.php#cont_3
■ 商品に消臭効果はないんですか?
私どもの臨床データでは、口臭・体臭・便臭に対する消臭効果はあり、お客様へのアンケート調査でも7〜8割のお客様が違いを実感されており、リピートされる方も非常に多いので、ご満足いただけていると考えております。(小冊子・読本のデータにも偽りはございません。)
ただ、公正取引委員会の判断として私どもが提出した臨床データだけでは効果の裏づけとして不十分である、との指摘があったのは事実です。今回の指摘を踏まえ、さらなるシャンピニオンエキスの消臭機能に関するデータを揃える為、素材メーカーと協力して研究を進めており、その結果につきましては随時、お客様へご報告させていただく予定です。
リコム社(シャンピニオンエキス素材開発会社)のニュースリリース
シャンピニオンエキスに関する資料概要はこちら

この説明から、グリーンハウス社が「臨床データ」をどのようなものだと理解しているのかを推測するのも興味深い。

→【4】法律違反
今回のケースでは景品表示法第4条第2項に違反するとされた。いわゆる優良誤認である。また、医薬品としての認可を受けずに治療効果をうたうと薬事法違反に問われる。


不当景品類及び不当表示防止法第4条第2項の運用指針 − 不実証広告規制に関する指針 −(公正取引委員会)

優良誤認とは(公正取引委員会)

特に運用指針の「第3「合理的な根拠」の判断基準」は、メーカーや販売会社などが効果・効能をうたうためには、どのようなことが確認されていなければならないかだけではなく、どのようなものは根拠にならないかまで踏み込んで、例を挙げながら説明がなされている。単に勉強になるに留まらず、こうしたことが理解できていなかったり、根拠にならないものを根拠として強弁する業者が少なからずいることをうかがわせる。

→【5】 口臭
医師や研究者による定義では、他人に不快感を与えるようなものを口臭と呼ぶ。口や息の匂いはなんでも口臭と呼ぶわけではないし、他人にわからないものは口臭ではないことになる。

日常的な感覚とは合致しないが、治療や対策を目的とした実証研究であれば、こうならざるを得ないのだろう。ただし、上記のように明言している資料があったわけではなく、複数の資料から読み取った事柄である。たとえば大学病院医療情報ネットワーク(UMIN)の看護度分類では、患者状態項目:消化器症状:N0319 口臭(呼気臭)に「口腔及び呼気の悪臭である」と記している(強調は亀@渋研X)。
また、近年は「自己臭」「自臭症」がひとつの焦点となっている。これについては、ほんだ歯科口臭外来の本田俊一院長など、「第三者にはわからない口臭」に関する悩みに着目する医師も出て来ており、「口臭とは何か」が改めて問われはじめているということかもしれない。

→【6】歯科の健康診断
宮城県での333名を対象にした調査。志村匡代ほか「農村地区における口臭治療の潜在的需要について : 成人歯科健診における口臭検査と質問紙調査の検討」 (2003)。

国立情報学研究所のCiNii(NII論文情報ナビゲータ)で梗概が読める(NIIは国立情報学研究所の頭文字)。

CiNii - 農村地区における口臭治療の潜在的需要について : 成人歯科健診における口臭検査と質問紙調査の検討
http://ci.nii.ac.jp/naid/110004616069/

農村地区での調査であり、歯科健診に来た人が対象であることには注意が必要だろう(たとえば都市部や無作為に抽出した場合は結果が異なる可能性がある)。

→【7】いくつかの調査
相澤文恵ほか「高校生の口臭に対する意識からみる自臭症リスク要因の行動科学的検討」 (2000)、厚生労働省「平成11年度保健福祉動向調査」(1999)など。

CiNii - 高校生の口臭に対する意識からみる自臭症リスク要因の行動科学的検討
http://ci.nii.ac.jp/naid/110004015352/

厚生労働省「平成11年度保健福祉動向調査」(1999)の概況
http://www1.mhlw.go.jp/toukei/h11hftyosa_8/index.html
2 歯や口の中の悩みや気になること(自覚症状)
表2 性−年齢階級−市郡別にみた歯や口の中の悩みや気になること(複数回答)
http://www1.mhlw.go.jp/toukei/h11hftyosa_8/kekka2.html

下記記事でもグラフ化されて引用されている。

口臭が気になる働き世代 / SAFETY JAPAN [特集] / 日経BP社
http://www.nikkeibp.co.jp/sj/2/special/294/

→【8】口臭症の国際分類
右の表を参照。

→【9】仮性口臭症の比率
右の表を参照。新潟大大学病院の口臭外来初診患者210名のもの(1998年)。

→【10】 全身由来 3.3%
来院患者の内、口腔内には原因がないが口臭のあった者の割合。前掲【9】による。真性口臭症のうちの割合としては5%程度ということになる。
八重垣、宮崎ほかによる国際分類は、あちこちで引用されている。
http://www.dentalmori.com/koushuu/kobunrui.html
http://wiki.breath-design.com/?eid=52
http://www.twin.ne.jp/~kamemizu/backnumber/05.html
http://www.bea.hi-ho.ne.jp/tadaaki-jo/topics.htm

CiNii - <原著> 口臭症分類の試みとその治療必要性
http://ci.nii.ac.jp/naid/110000299571/
口臭治療・自臭症への取り組み(表 7初診患者の病態別人数分布)
http://www.honda.or.jp/hoken001.htm


記事中では踏み込みきれなかったことなどについて、次エントリ以降で触れたい。
posted by 亀@渋研X at 17:24 | Comment(1) | TrackBack(0) | MONOQLO | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする はてなブックマーク - 口臭対策のウソとホント(『MONOQLO』5月号)
この記事へのコメント
私のブログで「人間の嗅覚と無臭社会について」(http://mohariza6.exblog.jp/8469108)でも扱っていますが、
「動物は、本来、臭いを放つもので、本来、人間も、臭いを放っている。(今も、身体の一部<皮膚のアポクリン腺>から、臭いを放っている。)
日本人は、何故か、<無臭社会>へ突き進んで、コマーシャルも、無臭社会へ日本人を煽っている…。」ように思います。

「口臭」も、<胃腸、または、歯茎の炎症等>から放たれる臭いと思いますが、日本人は、<無臭社会>に突き進み、コマーシャルも煽り、神経過敏になっている気がします。

人間は本来、動物で、動物も含み、万物の雑多な匂い(臭い)の世界の中に存在するものと、考えれば、「口臭」など、神経質に気にしないでも良いと思うのですが…。
Posted by mohariza at 2009年03月20日 18:47
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