2009年02月21日

保育所・入所希望が急増:驚いてる場合じゃないよ!?

保育所:希望が殺到…不況で働く母急増 東京23区(毎日新聞 2009年2月20日)という記事を読んだ。
 東京23区を対象に入所希望者の数を調べたところ、08年の前年比7%増から一気に約30%増となった杉並区を筆頭に、板橋区約21%増▽世田谷区約18%増▽練馬区約17%増−−などが近年にない伸びを示し、中央区、千代田区を除いた各区で軒並み増加している。
 希望者急増について、杉並区保育課は「これだけ増えるのは想定外だ。景気悪化の影響が顕著に表れたのではないか」と話している。
おいおい、なにをのんきな。新年度には学童保育だって、きっと大幅に希望者が増加するぞ。

最近の統計や過去の体験を考えると、なんかひどい悲劇が起きないか、気が気じゃない。

行政は、「求職活動のための短期間一時保育」「収入額や労働時間に応じた経済的・人的支援」など、急ごしらえの間に合わせでもいいから、早急になんらかの対応をしなければならないだろう。なにか悲劇が起きる前に。

記事でも指摘されているように、東京は全国で最も待機児童が多い。
平成19年 待機児童マップ

保育所待機児童の現状(内閣府・少子化対策 平成19年「子どもと家族を応援する日本」重点戦略検討会議 第6回 点検・評価分科会資料)から
赤い都道府県は1,000人以上3,000人未満、黒い都道府県は3,000人以上の待機児童がいる。黒く塗られた唯一の自治体が東京都だ。

ちなみに赤い四府県は埼玉、神奈川、大阪、沖縄。市町村では大阪市がワーストだという。沖縄が入っているのも気がかりだ。

東京の待機児童数は、東京都の資料「保育所の設置状況・入居待機児童数について(平成20年7月)」で公開されている。平成19年に少し減ったものの、基本的にはずっと横ばいだったのが平成20年にまた増加している。保育所も増えているのだが、まるで追いついていない。

1 保育所等の設置状況
    区分     認可保育所       認証保育所
       施設数(所) 定員(人)  施設数(所)  定員(人)
平成15年    1,619   158,106    151      4,302
平成16年    1,629   159,715    212      6,173
平成17年    1,635   160,616    271      8,045
平成18年    1,648   162,357    323      9,681
平成19年    1,673   164,807    367      11,130
平成20年    1,689   166,552    410      12,723
(対平成19 年) +16    +1,745    +43      +1,593
(注)各年4月現在

2 保育所待機児童等の状況
(1) 保育所待機児童数の過去5年間の推移
   区分 待機児童数(人)               対前年増減
        0歳児 1歳児 2歳児 3歳児 4歳以上  (人)
平成15年 5,208  637  1,780  1,544   906  341   +152
平成16年 5,223  475  1,841  1,501  1,068  338    +15
平成17年 5,221  546  1,855  1,583   881  356    △ 2
平成18年 4,908  477  2,020  1,362   789  260   △313
平成19年 4,601  516  1,900  1,397   613  175   △307
平成20年 5,479  848  2,678  1,268   512  173   +878
(注)各年4月現在

保育所等の設置状況等(東京都)PDFより
ある年に急にニーズが増えても即座に対応なんてできないことはわかるが、昨年以来の景気低迷が保育所ニーズに直結するだろうなんてこともまた、わかり切っている。そうでなくても追いついていないのだし、この場合「予想できなかった」なんて表現は現状認識が珍妙過ぎる。

「待機児童」というのは、行政の資料によると「なんらかの事情で入所が遅れた子ども」というような言い方がされる。上述の資料にも、全国や指定都市、大都市圏での待機児童がどれぐらい「入所が遅れたか」という数字も出ているので、なんとなく「そのうち入れる」ように思えるのだが、次に述べるような体験があるので、本当に入所できるのか、そこもまた疑問だ。


ここまでは新しめのデータに基づいた話。ここからは、ぼくのいささか古い体験談がベースだ。市によっても事情が違うはずだ。うかつな一般化はできない。最近の事情などをご存知の方がお読みになっていたら、いまどきは事情が違う部分などをご指摘いただけるとありがたい。

ぼくの場合は、十年あまり前の東京・三鷹市での話。保育園に入園するのは、かなりハードルが高かった。しかも、それは必ずしも家計の助けにはならないということも多かったと聞いている。

かつて、うちも保育所のお世話になった。そのときに直面したのは、入所させてもらうためには、「母親が勤務先に出かけて行くこと(自宅作業じゃダメ)」「母親が現に勤務していること」「常勤であること」「代わりに子どもの面倒を見られそうな家族がいないこと」などという条件だった。別に「そうでなければならない」と決まっているということではない。優先順位が高くないと、申し込みは受け付けてはもらえても順番待ちの行列に加えられるだけなのだ。優先順位が高い家庭からの申請があると、実際にはいつまでも入所できないことになる。

少なくとも、そのように言われていたし、当時住んでいたアパートにようすを見に来た市の職員(入所を希望したら、そういうチェックをされたのだ)も否定はしなかった。

そのため、保育所に入れてから仕事を探すなんてことはできない。できるだけ子どもの近くにいたいからと、家庭でできる仕事を見つけたりしてはダメだということになる。また、ダンナが家で仕事をしている、祖父祖母と同居している、などというのもダメだ。

条件をクリアしても、遠い保育園に預けなければならないかもしれない。市内のどこの園でも希望はできるが、空きがなければ希望は通らない。

緊急度の高い家庭から順番に、というのは理屈には合っている。数に限りがあるので、そうしなければ回らないのだ。例外的に、勤務してない場合は、病気などで「緊急保育」というのもあった。筋は通っている。

問題は、決定的に「器と人と金が足りない」ことから起きている。


アドバイスをしてくれた地元サークル(保育園への入園を支援してくれるサークルがあったのだ)の先輩パパママは、「公立の保育園や認可保育所に入れたくても、まず無認可でも高くてもなんでも入れるところに入れて実績を作ること」なんていうアドバイスをくれた。なんじゃそりゃ。

よほど切羽詰まった事情がないと、「新年度=春まで待っててください」という事情もあった。そのために、4月には預けやすい月齢になるようにと計画出産する人さえいた。

これでは「知人の会社で働いていることにしてもらった」などというゴマカシをする人が出て来ない方がおかしいのではないか(勤めていると言うためには、勤務先からの証明書類も必要だったのだ)。

我が家の場合は、アパート住まいで同居親族はいなかった。しかし、長女のときは家内は出産で退職してから仕事を見つけておらず、その他の条件がそろわずに諦めるしかなかった。次女の時にはぼくが会社を辞めて事務所を都心に借りていたため、ふたりともそこで仕事をするということで常勤かつ出勤と認めてもらえた(と理解している)。仕事をするためにお金をかけていたから入所できたと言えるかもしれない。

しかし、小学校の学童保育から長女が帰って来るのは、午後5時だったか6時だったか。当時は学童の延長保育はなかったと思う。うちの事務所であり、勤務時間帯は自分で決めればいいようなものなので、間に合うように退勤することができた。いや、家で作業をしていたって仕事の上ではなんの問題もない。けれども、ふつうの企業に常勤で勤めていたらどうなっていたことやら。


さらに、保育所費用やそれに伴う出費増が、働きに出て得られる収入を上回ることも珍しくない、という話もあった。今回の希望者増加が本当に「家計を助けるために働きに出る」ためだとしたら、なんかもう、ムチャクチャでござりまする、の世界だ。

我が家の場合は、家計の助けもさることながら、家内が家で孤独に子どもたちとだけ向き合うことに疲れ、なにかして働きたかったという理由が大きかったし、別にスーツが必要な仕事でもない。稼ぎも知れていたが、出費も公立保育園の費用以外は交通費が増える程度で済んだ(事務所の維持費用は、家内が出勤して来ても来なくても変わらないので)。しかし、一般企業に常勤で入ってしまったら、早く帰れなくて店屋物や外食で食費が増えたり交際費が増えたり、もっといろいろとお金がかかったことだろう。


なによりも母親を追い詰めるのは、条件として「現に保育に欠けること」みたいな文言があることだった。要は「育児できていない」という事情が必要なのだ。これは家内にもぼくにもショックだった。

まるで「親として失格なんです」と自己申告して力説しろ、というような辱めを受け、あまたのハードルを課され、それらを乗り越えても家計の足しにはあまりならない(ヘタをするとまったくならない)というような状況。劇的に増加するに違いない待機児童数。

絶望する母子が出て来たりしないだろうか。


幼保一元化(幼稚園と保育園の統合)が進んでいることも、マイナスに働かないかと危ぶまれる。幼稚園が保育園を統合する場合には、給食設備などの拡充が必要な場合が多い。受け入れ人数が多くなれば、施設の規模や職員数だって拡大する必要がある。頭数だけでなく、幼稚園の教諭と保育士は、受けて来ている教育も、実際にやってることも違う。幼稚園は「幼児教育の場」だが、保育園は「第2の家」なのだ。

規模の拡大の問題は、保育園に幼稚園を統合する場合でも同じだ。次女が通っていた保育園は、官立民営化されて先頃再オープンしたばかりだ(三鷹市立だけど、実際の運営はベネッセがやる)。そんな状況下で受け入れ枠を拡大しろと言っても、おそらく無理だろう。

そうしたことの対応で資金と人的リソースが食われている現状で、迅速な対応ができるかというと、あまり楽観的にはなれない。


「少子化で空きが出る」「ムダな施設は不要」といった側面からの「効率化」「合理化」が、保育の現場において適用されていけないとは言わない。幼稚園が文科省管轄で、保育園が厚労省管轄という縦割り行政のしわ寄せも、放置してはいけないだろう。

おそらくは、いろいろな点での程度問題、バランス問題なのだろうとは思う。

別に目新しい提案ではないけれど、この際、これまでいろいろ言われて来た「育児支援」について、片端から「やれるようにする」ための体制作りを国はできないものか。

できればプロに預かってもらえる体制作りがいいとは思うけど、箱を作るだけではなく、ほかにできることがないかといった模索もすべきだろう。たとえば家庭へのボランティアの派遣などといったネットワークの育成・整備などは、並行して進められるのではないか。知り合い同士で預け合うことを支援するような仕組みもあってもいいだろう。経済的な支援だけでなく、事故に際しての保険だとか、指導員による巡回相談だとかいった補助などもあるといいのではないか。

以前から「家によその人が入って子どもを預けるのはちょっと」という抵抗は多かった。親が在宅している時に共同保育から始めるとか、ボランティアに対する「自分の育児方針を押し付けるのが、先輩ママの役割な訳ではない」といった教育など、利用者の不安や抵抗を和らげるための仕組みも用意しなければならないかもしれない。

企業に対しても、子連れ出勤支援とか経済的補助だとか、できることはいろいろあるのではないだろうか。

子どもが国の宝だとか、子どもを犠牲にしてはいけないとか、出生率の低下や少子化がどうのこうのと言うのであれば、時限立法ででもなんでも、国の緊急予算を組んででも、やれる対策は早急に柔軟に手を付けるのが筋なのではないか。

ううう、地団駄踏みたい(-_-)
posted by 亀@渋研X at 00:40 | Comment(0) | TrackBack(1) | 学校とか教育とか | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする はてなブックマーク - 保育所・入所希望が急増:驚いてる場合じゃないよ!?
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