2009年05月05日

いま熱が出たら、どうしろって話?

さっき、ちょっとクラっとくる報道を読んだ。東京でおきている診療拒否(感染症診療の原則 2009-05-05)経由。

新型インフルエンザ:感染国に渡航歴ないのに…発熱患者の診察拒否 東京で63件(毎日新聞 2009年5月5日 東京朝刊)(魚拓

これは本当に診療拒否なのか。過剰反応なのか。そもそも「2日朝〜4日朝」のほとんどは時間外だよ。2日は土曜で大半の病院が午後は休診、3日は日曜で休診、4日は国民の休日でやっぱり休診。これを「2日朝〜4日朝だけで計63件に上る」と書いちゃうと、なんかおかしくないか。なんなんだ。

と思っていたら、さっきFNNのニュースをWebで見てやっとわかった。

新型インフルエンザ 都内の病院で発熱などの症状訴える患者が診察拒否される例が相次ぐ(FNN 05/05 14:19)(魚拓

どうやら2日朝から4日朝までに東京都に寄せられた相談の話で、それが4,085件あり、そのなかに「私は診察拒否された」という内容のものが63件あったというのだ。診察時間とはなんにも関係がなかった。

もっとも、それでも最初の疑問のひとつしか解消されない。それは本当に診察拒否だったんだろうか。「まず発熱外来へ」「保健所へ」と促されただけだったりしないのか? 患者自身が感染国に行ってなくたって、昨日会った人が行ってて、それを患者は知らないかもしれないじゃないか。ほんとにそれは過剰反応なんだろうか。

仮に過剰反応による診療拒否だとして、誰が病院をそこに追い込んだんだろう。過剰な報道は、医師も関係機関も市民も、みんなを不幸にするってことの現れだったりしないか?


関連して、さっき、こんなブログ記事を読んだ。

診療拒否と騒ぐ、毎日新聞(内科開業医のお勉強日記 2009年 05月 05日)

この方もぼくと同じような疑問をお持ち。いや、それだけじゃなかった。
そもそも、保健所が「新型インフルエンザではないから一般病院へ」と即答することなどあり得るだろうか?

“発熱に対する病院側への問い合わせに、発熱センターにまずは問い合わせしてください”と答えた場合までカウントしているのではないか?
(略)
大げさな対応と思っても、最悪の場合を考え、発熱センターへと、誘導する医療機関・医者がいても不思議でない。
できれば全体を読んでみてほしい。怒りがにじみ出ている文章なので不快な方もいるかもしれないが、自分の職業に続けざまにコレをやられたら、誰だって怒るよね、とそこには目をつぶって。

上記ブログで引用されている毎日の記事の見出しが違うことにお気づきだろうか。こっちは、最初に「毎日.jp」に上がった記事の見出しなのだ。

新型インフル:東京の病院、過剰反応 発熱患者の診察拒否(毎日新聞 2009年5月5日 2時30分)(魚拓

朝刊では見出しを差し替えたってことは、そこになんらかの判断が働いたわけですよね? 釈然としないと言ってはおとなしすぎるだろうなあ。「また医者がしでかしたよ!」とか喜んでいるから、こういう誤読を誘うような記事を書いておいて気づかないんだよ、と思ってしまうのは誤読させられたと感じる者の逆恨みでしょうか。

【17:59追記】
こういうエントリも出た。

「マスコミたらい回し」とは?(その140) 豚インフルエンザ 毎日新聞本日一面トップの江畑佳明記者の「東京で発熱患者の診察拒否」記事は「新型インフルエンザ感染爆発」を引き起こしかねない悪質な誤認記事か?→発熱外来勤務の医師から一言→「二次救急病院ですが新型インフルエンザかどうか判定するための第一段階に使う簡易キットも治療薬のタミフルもほとんどありません」こんな状況を無視して書き飛ばす毎日新聞の素晴らしさ→他の医療機関から「現場を中傷して志気を挫くな」(天漢日乗 2009-05-05)

いろいろ示唆に富んでます。ぼくのこのエントリよりずっと。
【追記ここまで】


それはさておき。

こういう話題を報道するならば、「東京都によると『医者がこんなことをしでかした』と言っている人が63人ぐらいいる」とかいう話だけにするんじゃなくて(そんな報道は、不安をあおる以外の何の役に立つのかわからない)、どう行動すればいいのかにつなげるような工夫をしてほしい。たとえば「みんな新型インフルに過敏になっているので、発熱などがあった場合、もしも新型インフルかもしれないと思うなら(あるいは、新型かどうかを勝手に判断せずに)、いきなり医者に行かずにまず保健所に電話を」とか、土日祝日ってかGW中は一般の病院はたいがいお休みなのでこうしたらよろしいとか、せめて後段はそういう話にもっていってくれんものか。ニュースでは無理かねえ。

ちなみに保健所に連絡するのは「新型インフルかもしれないと思うなら」と「新型かどうかを勝手に判断せずに」の、どっちがいいのか、ぼくにはわからない。どっちでしょうね。そういうことを記事にしてくれてもいいなあ。

【17:48追記】
うわ。メキシコでの死者の多くは経済的な事情のせいで診療が遅れたため、というのは予想の範囲内ではあったけど……ホメオパシー!?

http://www.cp.cmc.osaka-u.ac.jp/~kikuchi/weblog/index.php?UID=1240968090#CID1241495232

こういう情報こそ、ニュースでもちゃんと流そうよ!
【追記ここまで】


実は毎日の記事については、最初こんなブコメを書いた。
kamezo メディア, 医療, 新型インフルエンザ なんだか変な記事。〈2日朝〜4日朝だけで〉それは土日祝日、ふつう診療はお休みです。そこは救急指定病院? インフル関係なくない? これどういう取材? まず保健所に連絡したケースはどれぐらいあったの?
ツッコミをいただいた(^^;;
inhouseneet ↓「ふつう診療はお休みです。」ド田舎にお住まいですか?都内の話ですよ。
えー? と思って、病院検索みたいなサイトをざーっと眺めたら、あらほんとだ、土曜の午前中は診察している病院がけっこうある。

というわけで、ブコメには「訂正:土曜午前はけっこうやっている模様。」と加筆。いやまあ、田舎は田舎なんですけどね(三鷹はいまも緑がけっこう多い。埼玉から遊びにきたヤツには、あまりの畑の多さに「ここは絶対東京じゃない」と言われたこともあった。もう10年も前で、その頃よりは減ったけど、まだまだ多いよ)。田舎でも土曜日はそんなもんでした。お詫びして訂正します。

ところがさらにFNNまでたどり着いてみると、上述のように診察時刻とかは関係なかったわけで。お騒がせしました。 m(_ _)m。
posted by 亀@渋研X at 17:30 | Comment(2) | TrackBack(0) | 渋研X的日乗 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする はてなブックマーク - いま熱が出たら、どうしろって話?
この記事へのコメント
「諸君、担当医は、院長命に背き患者の診察を放棄した。受け入れ態勢がないから医療は出来んと言って患者の診察を勝手に断りよった。これが病院か。病院は受け入れ態勢がなくても受け入れをしなければならないのだ。検査キットがない、やれタミフルがない、リレンザがないなどは診察を放棄する理由にならぬ。

(中略)

担当医には応召義務があるということを忘れちゃいかん。病院は公立である。市長が守って下さる・・・」

以下、訓示は一時間以上も続いたため、当直明け通常勤務後の残業の連続で、抵抗力の落ちている医師がウイルスに罹り、病気で抵抗力の落ちた入院患者および外来患者に伝染する事態となった。

…。
……。
………。

感染者や感染者疑いを受け入れる、院内感染を防ぐための態勢が整ってないのに、「応召義務云々」で無理に患者を受け入れたら、院内感染が起きて「病院自体が感染源」になってしまう危険性があるんですよね…。

感染者を受け入れるための準備が整っている「発熱外来」ならともかく、検査キットも無い、リレンザが無い、タミフルも無い、院内感染を防ぐための設備も整えられてない一般病院では、患者を受け入れられなくても仕方がないと思います。

●タミフル・リレンザは既に出荷制限がかかっており現在は指定病院にしか入荷されない。各病院におけるそれらのストックも(当然ながら)万全ではない

●インフルエンザ検診キットは消費期限が短く、この時期に一般医療機関におけるストックはまずない。もし追加生産されても、それらは指定病院や検疫機関へ最優先に出荷される為、一般医療機関には入荷されない。

上記のように受け入れ体制が不充分な一般医療機関にてそのような患者を無理に受け入れ、新型インフルエンザによる集団院内感染が発生したら誰が責任を取るんでしょうかね?
Posted by 都筑てんが at 2009年05月07日 22:11
くそやかましい学生どもがいなくなるだけで朝はこんなにも清々しくなるのか!

と爽やかな気分になる一方で、

これで普通に病院に行けなくなってしまったな

という不安が頭をよぎりました。
いつかこの日が来るのだと解ってはいたけれど、まさか自分の近くからスタートするとはなぁ・・・。
かかりつけの医師と話をしたのですが、

熱があったら直接うちには来んといて
熱がないならあんまり来ん方がいいかも

というなんだかなぁな感じでしたね。
「来たらうつされるかもしれないよ」ということなのですが・・・。
今度の学生たちも普通に病院に行ってたわけで、既にうつされた
「病院に行かなくちゃならないような衰弱した人たち」も多いんだろうなぁ。
Posted by ゴホンといえばリボ核酸 at 2009年05月16日 21:00
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