2007年04月18日

なぜ流行る「脳の活性化」ツールとしての「大人の塗り絵」

TAKESANちの「単に」塗る、って何?(2007年4月16日)経由で、下記の記事を読む。

ITmedia Biz.ID:単に「塗る」だけでは脳は活性化しない──三菱鉛筆が川島教授と検証(2007年4月13日)
http://www.itmedia.co.jp/bizid/articles/0704/13/news118.html

プレスリリースと、ほとんど変わらない内容ですな。ってことは「検証」が中心の見出しって、報道としてどうなの。「発売」が中心じゃなきゃおかしくない? いや「検証されたことにニュースバリューがある」っていうことなのか? その割りに、検証の内容についてリリースの域を出ないってのは、なんだかなぁ。

しかし「初年度販売目標は約1億円」って、すげえよ。1セット3,675円/本体価格3,500円ってんだから、ええと2万7千セットぐらい売るつもりなんだな。

大人の塗り絵、ここ1、2年ほど増えてるなあと思ってはいたのだけど、いよいよ浸透している模様。
この手の商品、もともとは高齢者が対象だったと思います。ボケ防止とかリハビリとかね。
それがもっと下の世代にも受け入れられているらしい。
大人の塗り絵では「本家」みたいな河出書房新社のサイトでも脳の活性化はアピールされてますね。
こちらの書評?でもそういう「特徴」について触れられています。あ、読売だけでもほかにもぞろぞろ(これとかこれとかこれとか)。
ペンテルにもこんなのもあるのね。

今回の三菱の商品は、監修が「あの」川島センセーというところが「ちゃんと裏付けがある」っぽくて売りになってるということでしょう。

ぼくはもちろん脳の詳しいことなんか知りませんが、それでも「ただ塗るだけではダメ」という話には、うなづける部分と疑問に思う部分の両方があります。

「うなづける」のは、「繰り返しの単純労働は、慣れればほとんど頭を使わない」ということを経験的に知っているので、「ああ、そうかも」と思う、ってこと。
「疑問に思う」のは、「単純労働でも、効率とかを考えながら試行錯誤していると、かなり頭を使う」ということを、やはり経験的に知っているから。

また、この「自分は経験的に知っている」とか実感があるというのが怪しい、全面的に信用はできないということも経験的に知っている(^^;;
そういうわけで、「もうちょっとちゃんと説明してくれないと、正しそうとも間違っていそうとも言えない」って状態です。

色を塗る作業について言えば、IllustratorやPhotoshopなどのアプリケーションで彩色するときだって、ややこしいことをやろうとすると、かなり頭を使います。多分「指先を使うかどうか」なんてことも関係あるという話になっていますが、ペンタブレット使ってたらどうよ、なんてことも思う。
もちろん「ベタでもグラデでもコマンド一発で塗れる」わけだけれども、「思うように塗る」ためにはそれなりに考えなきゃいけないわけで、「パソコンを使うとうまくできる」ってわけではないのは、やったことがある人なら誰でもわかる。

絵であれなんであれ、「それなりに楽しく頭を使えている」と思っている人は、こういうもんに関心を持たないであろうってことですな。画題が気に入ったとかいうだけなら複製とか画集とかあるし。

というわけで、要は「衰えを実感しているわけでもない人が、リハビリなんかよりも予防を中心に脳みその状態を気にするのだったら、そんな塗り絵商品とかに頼らなくても、一生懸命工夫しながら絵を描いたり塗り絵を塗ったりすれば十分なんじゃない?」ってことになるのだが、それじゃイヤなんでしょうねえ(^^;;

買っちゃう人って、どんなことを考えてるのだろう、と考えてみた。

かつてこの手の塗り絵に関心を示していたウチのカアチャンとか、Blogなどで採り上げている人をざーっと眺めた結果から察するに、どうもこんなことか。いや、たいした根拠なんかない、想像が大半なんですが。
・趣味とか特にないんだけど、なんか趣味がある方がいいんだろうなあ。
・そんなにヒマでもないけど、おもしろいことならやってもいいなあ。
・そういえば、頭を使うようなこと、あまりしてないかも。使わないと頭も鈍るんでしょ。
・そうじゃなくても、頭を使う方がきっといいよね。
・でも、勉強とか練習とか苦労はしたくないし。
・どうせやるなら実利がある方がいいなあ。
・塗り絵が流行ってるっていうなら、趣味としても実利としても、そこそこいいってことじゃない?(誰もやってないなら、塗り絵なんか恥ずかしいかもしれないけどさ)
・そんなに期待してるわけじゃないけど、どうせやるなら「科学的に裏付けがある商品」のほうが、裏付けがないよりはいいなあ。

「現代人は運動不足」という「常識」と同様に「現代人は頭も運動不足」みたいな「新常識」があるのかもしれないですね。

一方で、「頭を使えば使えるシーン」ってのは、家庭でも地域でも職場でもあるはずななんですが、それは苦痛だったり大変だったりもするのだろうなあ、とも思ったのでありました。

「指先と頭の両方を使う」ってことだったら、テレビゲームなんかでも、即座に対応を迫られたり、複雑なコマンドを駆使しなきゃいけなかったり、謎解きなんかのパズル的要素があるものだったら、少なくとも熟達するまではかなり「脳を活性化」させそうなんだけどね(^^;;


タグ:メディア
posted by 亀@渋研X at 16:20 | Comment(1) | TrackBack(1) | 渋研X的日乗 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする はてなブックマーク - なぜ流行る「脳の活性化」ツールとしての「大人の塗り絵」
この記事へのコメント
検索してみると、「塗り絵で脳の活性化」については杏林大医学部の古賀良彦教授が以前から熱心に情報発信をしていることがわかる。
同教授は「日本ブレインヘルス協会」というNPOの理事長でもあり、同協会のWebサイトでもこの話題がどちゃどちゃ出ている。
http://www.brainhealth.jp/

また、「ぬりえ美術館」では館長自身が被験者となって東邦大学医学部で測定を行なったりもしている模様。
http://www.nurie.jp/archives/2006/04/post_112.html

川島教授の検証結果との整合性は、いまいちよくわからない。前頭前野を重視する川島教授と、脳全体が活性化していることを重視している古賀教授、というような図式があるのかもしれない。

それにしても「脳ブーム」って……、発達著しい子どもでも、衰え著しい高齢者でもないのにそんなに気になるんだとしたら、どういうことなのか。相変わらずわからない。
どっかに「90%以上の人が脳に良いと言われることをなにかしらしている」という調査結果があったけど、どんな人を対象に調べたんだろう。それとも、みんな、やっぱり「なんとなく不安」なんだろうか。

ちなみに我が家には、その手の本もソフトもグッズもない。記事を書くために必要だったときは、図書館なんかを漁ったり店頭をチェックしに行ったけど、買いはしなかった。
流行に乗れない(乗りたくない)のはいつものことなんだけどね。
Posted by 亀@渋研X at 2007年04月18日 18:20
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Tracked: 2007-04-19 07:45