2007年07月17日

【種?】投影性同一視

先日、「患者への対応」でググっていて発見。

境界例の治療技法 6 患者への理解と対応:投影性同一視による操作
http://homepage1.nifty.com/eggs/iryou/gihou/projectiv_id.html

境界性人格障害ってやつの話だと思うのですが、自分を他者に投影してしまって、その投影された自分自身を批判したり嫌悪するということがあるのだそうです。外見上は、患者が誰かを批判しても、それは誰が見ても批判者自身の欠点であって「それをお前が言うな」なんて思われるような事態になったりするわけです。
一般化してしまってはいかんのでしょうけれども、「お前が言うな」状況は、しばしば見かけますよね。そんなせいもあって気になるフレーズがたくさん出てきます。
(略)
 これはたとえば弱者の救済という形で表現されることもあります。(略)表面的には弱者を救済しようとしているように見えるのですが、本当に救おうとしているのは他でもない自分自身なのです。
(略)
 たとえば、スタッフに向かって「お前は、自分勝手で自己中心的だ」という非難を浴びせたとします。患者の人柄をよく知っている人からみれば、「自分勝手で自己中心的なのは、他でもない自分自身のことではないか」ということになるのですが、患者自身はそういう自分のいやな部分を見ようとはせずに、そのいやな部分を他人に押しつけるのです。そして、いやな部分を押しつけた他人に向かって「お前は、自分勝手だ」と言って非難するのです。
(略)
 このような他人を利用した自己嫌悪は、患者が他人に憎しみを向けるというパターンだけではなくて、逆に他人に患者を憎むように仕向けるという形を取ることもあります。(略)鏡の役を割り振った他人から、自分を憎んでもらうことで、他人を利用した自己嫌悪という形を作り出すのです。
(略)
 では、なぜこのような防衛機制が発生するのかと言いますと、患者には自分というものがないからなのです。自分というものがないので、葛藤を自分だけで抱えることができないのです。(略)周囲の人たちは、患者から色々な役割を押しつけられて、気づかないうちに患者の葛藤の代役を演じさせられることになるのです。(略)本人としては「善人」のままでいることができるのです。つまり、自分はあくまでも善人であり、悪いのはすべて悪役を割り振った他人のせいなんだということになるのです。
(略)
 厄介なのは、患者の悪い面が映し出されたときなのです。スタッフが患者から激しい非難を浴びたりしたときには、ついカッとなって、言い返してやりたくなったりします。(略)しかし、このような反論は、火に油を注ぐことになります。「自分勝手なのは、お前の方だ」と言われたとき、患者がこの言葉をどのように解釈するかというと、「この人は、こうやって全部私のせいにして責任逃れをしようとしている。ますますもって許し難い自分勝手なやつだ」ということになるのです。そして、さらなる激しい非難を浴びせて来るのです。そして、お互いに「悪いのはお前の方だ」という非難の応酬となり、醜い口論が展開することになるのです。(略)しかし、このように患者が感情を剥き出しにしてくる場合は、それでもまだ分かりやすいのですが、患者が感情を抑えているような場合には、投影性同一視による操作になかなか気づかなかったりします。たとえば患者がスタッフに悪役を割り振って、いつもスタッフに接するときに、無言のままに悪人に接するような接し方をして来ますと、スタッフの方もいつの間にか患者に対して不親切になっていって、そのうちに自分から進んで悪人のような行動を取ったりするようになるのです。(略)
一般の人との対応にまでこうした話が適用できるとは考えない方がもちろんよいだろうとは思う。また対応策が、煎じ詰めれば「スルーする」のと「患者に共感的に接する」しかないので、現実の例には適用しにくいかもしれない。だから、この記事はそういう意味では役に立たないかもしれない。

でも、自分自身を含めて、「この境界例の患者のように振る舞っていないか」ということはときどき気にした方がいいかもしれない。
posted by 亀@渋研X at 18:00 | Comment(4) | TrackBack(1) | ニセ科学対策教材の種 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする はてなブックマーク - 【種?】投影性同一視
この記事へのコメント
お書きのような自省はぼくのような(近い要素を持つ)人間には多分必須です。わが身を振り返らなきゃなぁ、と思います。

ただ、それが人格障害として出ているとなると、ちょっと違うところもあると思います。そういうひとの行動は、「どうしてそうしなきゃいけないのか」というところからして多分普通の人間には分からない。
どうしてそうまでして「悪」を設定しなければいけないのか、自分の周囲に「憎しみの構図」を構成しなければいけないのか、と云うことについて、実感を持って理解することはけっこう難しいと思います。

例えばどこかのブログにすりよっては、そのコメント欄なんかで絶対に認められないような妙な理屈を捏ね回し、結果的に自分が叩き出されるように仕向けて、首尾よく叩き出されることで「憎しみの構図」を作り出して、そのあとは一生懸命嫌がらせにいそしむ、と云うようなひとがいます。
これって「どうしてそんなことをしなければいけないのか」と云うことを感覚的に理解できるひとはまずいないと思うんです。病理と云うのはそういうものかと。
Posted by pooh at 2007年07月18日 08:56
コメントありがとうございます。
うーん、そうですねえ、「ニセ科学対策教材の種」にはならないか。それこそ「理解不能」かしらね。
でもね、同サイトには境界例は日本人の2パーセントにのぼるなんて話もあって、それが本当なら彼らの「論の進め方」はかなりありふれたもので、部分的にであれば誰でもそういう傾きをもちかねないとは思うんですよね。
もちろん「病気の話」なわけだから、認知的不協和なんていう類いの、本当に誰でも陥り得る穴といっしょくたにしてはいけないとは思うのですが。

いや、これが気になるのは、個人的な事情かな。知り合い(の知り合いぐらいかな。面識はあるんだけど)に酷似した例がありまして。知り合いの振り回されっぷりから考えると、これなのかもなあ、なんて思ったりするせいもあるかも。
あんまり考えない方がいいかしらね。

エントリを書きながら自分でも危ういと思ったんですが、健常者のブレをつかまえて病者あつかいしたり、本当の病者に生兵法で接したりしかねないってこともありますよね。
上の引用先は一読して分かるように「病院のスタッフ」向けの記事だけど、同じサイトに患者の知人・家族・恋人向けの「境界例の人との付き合い方」っていう記事もあるんです(http://homepage1.nifty.com/eggs/iryou/iryou-index.html の一番下)。で、これは我々のような一般人向けのものなんだけど、それを読んでも、境界例の人と、せめて悪化させないようにおつきあいするって、並大抵のことじゃないですね。
たとえば「相手を変えようと思ってはいけない」なんて話もあって、ふつうの状態についてならそうだよねと思えるんだけど、本当にこの手の反応をする人に直面すると、そんなことまずもって無理。自分にとってどうでもいい人なのでなければ「それはおかしいよ」って言っちゃいかねない。

まあ、世の中にはこういうこともある、っていうぐらいでしょうか。<なに言ってるんだか(泣)
Posted by 亀@渋研X at 2007年07月18日 13:54
ちょっと本題とずれますが。

>どうしてそうまでして「悪」を設定しなければいけないのか、自分の周囲に「憎しみの構図」を構成しなければいけないのか、と云うことについて、実感を持って理解することはけっこう難しいと思います。

こういう問題について、「ものがたり」のもつ力の大きさってありますよね。できがよいものであれば、疑似体験できるといいましょうか。もちろん浅薄な理解で描かれたものを浅薄な理解でさらに薄め歪めて受け止めて、それで「わかったような気になってしまう」という弊害もあるとは思うのですけれど。
Posted by 亀@渋研X at 2007年07月18日 13:59
それは「ものがたり」の力でもあるし、もっと広げて云えば「文学」の力であり、「芸術」の力なんだと思ったりします。

病理とはいえひとの心のなかにある特定の性向の表面化なので、共感できるかたちで表現することは可能なんだと思うんです。でもそれは理性的に理解できるレイヤーにはない。でも、直接それをぼくたちの心に届けることができるのが、文学だったり音楽だったり美術だったりするんだろうなぁ、と思います。

本題ずらしまくりで恐縮です。恐縮ついでに、エントリを書いたのでいちおうトラックバックさせていただきます。
Posted by pooh at 2007年07月18日 22:44
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