心霊現象や超能力、超自然現象などについて非科学的といった態度をとると「科学で解明されていないものを一刀両断して捨ててしまう『科学万能主義者』」といった批判にさらされることがある。
では、科学は最初からオカルトをまともに相手にしなかったのか。実は、必ずしもそうではない。否定的な意味ではなく心霊現象に科学の光を当ててみようとした人が、科学的に実証できるのではないかと取り組んだ人がいなかったわけでは決してないのだ。
そうした事情を雄弁に語る本が現れたようだ。
書評:デボラ・ブラム『幽霊を捕まえようとした科学者たち』文藝春秋(読売新聞 2007年7月9日)
http://www.yomiuri.co.jp/book/review/20070709bk06.htm
同書は、心霊現象を肯定的に解明しようと取り組んだ科学者たちの営みを紹介している本のようだ。評者・川出良枝(東京大学教授)によると……
19世紀後半の欧米でも[亀註:現代と]似たようなブームが巻き起こった。霊媒師が人気を博し、各地で降霊会が催されたというのだ。面白いのは、そういった超自然現象を「科学では割り切れないもの」とみなすのではなく、まさに科学によって解明していこうという機運が高まったことである。(略)心霊現象の一切を頭ごなしに否定する科学者たちに対抗し、死者との通信やテレパシーや空中浮揚の実在を証明するため、大まじめで大がかりな実験や調査がなされたというのである。
実は、19世紀に限ったことではない。現在だってパラサイコロジー(超心理学)や心霊学といったものを研究している科学者もいる。たくさんの科学者が取り組んでいるとは言えないが、科学者が単に思い込みで心霊現象を否定しているわけではないのだ。冷戦時代の米ソでは軍が研究していたとか、日本でもソニーが研究所を作っていたというのは有名な話だ。
しかし、その結果はというと……
だが、霊媒師のペテンを自ら暴露する結果に終わることも多く、信頼をおいていた霊媒師の気まぐれにも振り回される。ファラデー、ダーウィン、ティンダル、エジソンといった当代一流の科学者を敵に回し、正統派の教会からも白眼視される。特に印象的なのは、プラグマティズム哲学と心理学で有名なウィリアム・ジェイムズの心霊研究に賭けた一生である。しだいに逆風が強まる中、自らの立場を貫いたジェイムズは、最後には、自分の生きているうちには答えはみつからない、と書き残したという。そうなのだ。これまで真摯な研究も何度なく行なわれ、さまざまな仮説が立てられて来たにもかかわらず、心霊現象や超能力、超自然現象の類いには満足な説明をつけるどころか、現象を確認することさえ困難だったという歴史が繰り返されている。多くの科学者がそうした現象をまともに取り合わない背景には、こうした歴史もまたあるのだ。
もちろん、だからといって「超自然現象などない」とは言えない。「まだ確認され解明されていないだけだ」という可能性がゼロになったわけではないからだ。
しかし、何度も真摯な研究が繰り返されても確認さえ満足にできないということの意味は大きい。少なくとも「積極的に『超心理現象はある』と言い得るだけの根拠が見つかったことはない」と言うしかないのが現状なのだ。
最低限「科学者はまともに研究もせずに『あり得ない』と切り捨てている」という言説は間違いだ、ということがわかるだけでも本書には価値があるだろう。
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