「カマキリは、雪に埋もれない高さに卵を産みつける」という俗説の真偽を検証した人がいる。無数のカマキリの卵の、産みつけられた場所を調べる膨大な研究。とかなんとか。ことの真偽がどうだったのかよりも、それは素晴らしい研究だと思ってググった。が、そしたらなんだか変なことに。
さらに理由として言われる「雪に埋もれると卵が死ぬから」ということの真偽も調べた。結局、卵は水に浸けてもふ化率は変わらない。それを調べるために、卵を採取して水に浸けることまでやってて、感心した。
ものすごい手間がかかってると思う。大学の先生が、学生さんを動員でもしたのかなあ。
■「カマキリは積雪量を予知している」?
多分「カマキリ 積雪」とかでググった。ヒットしたのが、これ。
Amazon.co.jp: カマキリは大雪を知っていた―大地からの“天気信号”を聴く (人間選書): 酒井 与喜夫: 本
http://www.amazon.co.jp/dp/4540031147
内容(「BOOK」データベースより)
「カマキリが高いところに産卵すると大雪」は本当か?どうして毎年生む高さが変わるのか、何を目安に決めているのか、それも雪の降る数カ月も前に…。積雪予測に挑み、自然の不思議に迫った民間研究者の記録。
んんんん??? こ、これなのか? なんか変。
さらにググる。読者が内容紹介をしているブログがヒット。
カマキリは大雪を知っていた(自然のたまもの 2007年01月17日)
http://blogs.dion.ne.jp/radica/archives/4910868.html
(あ、関係ないけど、オレの誕生日のエントリではないか)
酒井さんはスギの木に産卵された卵のうを見つけその高さを測ろうとしたときに手に触れた葉が微かに振動していることに気付き、もしかしたらカマキリもこの振動を感じているのかもしれない、これが産卵の高さと関係しているのではないか?
そう感じた酒井さんはこの振動をとらえるセンサー作りに没頭します。そして試行錯誤の結果、 脳波までも測れるセンサーを開発したのです。(赤字は引用者による強調)
あ、怪しい(^^;;
■「カマキリは積雪量を予知していない」?
上記のエントリをコメント欄まで読むと、こんな指摘が。
はじめまして。この酒井氏の著書には、科学的に批判されています。
下記のページをお読みください。
http://ohrwurm.cocolog-nifty.com/blog/2006/09/post_99e0.html
ぼく自身の読後感は以下のページに書きました。
http://ohrwurm.cocolog-nifty.com/blog/2006/10/post_eea3.html
端的に言えば、大雪を予測しているのはカマキリではなく酒井氏自身だ、ということです。Posted by Ohrwurm at 2007年09月24日 06:31
ややや、やっぱし!
このコメント主、「自然観察者の日常」というブログを書いておられる。上記のURLを含めて、関連記事が4本。
昆虫学会1日目(2006年9月16日)
http://ohrwurm.cocolog-nifty.com/blog/2006/09/post_99e0.html
カマキリは大雪を知っていた(2006年10月 1日)
http://ohrwurm.cocolog-nifty.com/blog/2006/10/post_eea3.html
日本昆虫学会第67回大会2日目(2007年9月16日)
http://ohrwurm.cocolog-nifty.com/blog/2007/09/672_8219.html
朝日新聞be「積雪の量 カマキリがズバリ」(2007年12月16日)
http://ohrwurm.cocolog-nifty.com/blog/2007/12/be_edef.html
これらを読み、かなり納得(文中で「水からの伝言」を引き合いに出している部分もある。ううむ、有名なんだなあ)」。安藤喜一さんという昆虫学の
●カマキリの積雪量予知は「誤り」(東奥日報 2007年12月9日)
http://www.toonippo.co.jp/news_too/nto2007/20071209195158.asp
(この記事、実はすでに消失していてInternet Archivesにもない。2chに全文引用されていたので、こっちにもコピペ)
「カマキリに積雪の予知能力があり、高い所に産卵すると大雪」という一般に知られた説に対し、 弘前市の安藤喜一弘前大学名誉教授(68)=昆虫学=は検証の結果、「誤りである」との結論を出した。
この説は「カマキリの卵は雪に埋もれると死ぬ」ことを前提にしているが、雪の下に約四カ月間あった卵を採集したところ、97.9%が孵化(ふか)し、卵には耐雪性があることが判明。
産み付けられた高さも百八十センチ〜十八センチとまちまちで、大半が雪に埋もれて越冬することが分かった。
通説は、新潟県の民間研究者が降雪にまつわる言い伝えについてデータ収集した結果、カマキリの産卵位置で積雪予測ができるーーと結論づけたもので、二〇〇三年に書籍にもなり、広く知れ渡っている。
この説は「カマキリの卵は雪の重さに耐えられず、窒息状態となって孵化が極めて難しくなる」ことを前提に論を展開しているが、安藤名誉教授は、その推測を裏付ける調査がなされていないとして研究に着手した。
〇六年四月、弘前市の野外でススキやヨモギなどに産み付けられ、約四カ月間雪に埋もれていた卵のう四十七個を採集。卵のうの中の卵計九千百三十九個を一定温度に温めたところ、八千九百四十五個が孵化。孵化率は97.9%だった。〇七年は少雪だったため雪に埋もれていたのは六十二日間だったが、五千九百三十六個の孵化率は同じく97.9%だった。
また、降雪前の二〇〇五年十一?十二月に、野外の植物に産み付けられていた卵のう二百三十八個の高さを計測した結果、ニレが平均一七九・九センチ(卵のう九個)、ススキ同五九・四センチ(二十個)、ナワシロイチゴ同一七・九センチ(四十七個)などと、植物の種類によって大きく異なっていた。
弘前市のこの年の最深積雪は一三九センチで、ニレ以外は雪の下に埋もれており、カマキリが最深積雪を予想し、それより上の場所に産卵するとする説に反していた。
※写真=自宅の「虫部屋」でカマキリ研究に打ち込む安藤名誉教授
http://www.toonippo.co.jp/news_too/nto2007/imags2007/1209g.jpg
この記事で言われている2003年の書籍が、前掲の酒井氏の本であることは、まず疑いない。
さて、これは新潟と青森の地域差といったことだろうか? それとも、真っ向から対立する観察結果が得られたということなのだろうか?
■もっと生なデータはないのか?
酒井氏の著書の読者の方のなかにも、懐疑的な方がおいでだった。
「カマキリと積雪」(山田弘明 ホームページ - 越後/雑感 2003/12/20)
http://www.uranus.dti.ne.jp/~hyamada/echigo/kamakiri.htm
酒井氏の主眼は積雪予想をしたいという生活に根ざした動機であり、その目標に向かって自由に研究を展開していってもらいたいと思うが、この研究に関して私の知りたいことを列挙しておく。
あ)(略)もっと単純な「カマキリの卵と積雪の徹底した相関」を知りたくなる。そのためには、産卵位置とその場所での積雪量に関する長年に渡る徹底したデータが知りたい。狭い範囲で十分であり、補正も必要ないので可能ではないか。(略)
い)平均値など意識せずに生のデータの分布が知りたい。つまり、例外的にズレているものまで含めて、先入観を一切入れないデータを知りたい。(略)
う)雪の降らない地域の卵のうの産卵位置についても同様の生のデータ、分布が欲しい。(略)
(略)
か)酒井氏の考察のように、植物(杉)が重要な大地の環境情報を蓄えているということは合理的かもしれない。いったんカマキリから離れ杉のみの移動実験をして、例の探知機で水分量や温度を調べるとどうなのか。(略)
どうやら書籍には、カマキリの卵の位置についての生なデータはさほど出ておらず、例えば平均値が示されて、その補正の仕方を中心に述べるといった叙述になっている模様。
当たらない天気予報とカマキリの卵(混沌の間 - 庭の観察 2006/01/19)
http://konton57.blog8.fc2.com/blog-entry-341.html
著者は実によく調べているし、その姿勢には頭が下がる。研究内容もとても興味深い。しかし、天気の予測がいかに難しいかをぼんやりとでも知るものにとっては、相当の証拠を突きつけてもらわねば、到底承服できる結論ではない。著者自身、少なくともその論文の中で(そこが本に収録されている)、補正の仕方で結論が変わり得るとしている。他に追試をやっている者もおらず(いたら教えてください)、信憑性はきわめて低い。
ここではさらに手厳しく、「信憑性はきわめて低い」とまで言われて
いずれにしても、「カマキリの卵の高さ」と「積雪量」の関係をストレートに説明するようなデータは、書籍にはないらしい。
なんでそういうことになっているのか?
■酒井説は「カマキリ研究」ではなく「積雪予想技術の研究」
ここまでで、酒井説(カマキリが積雪量を予知する)の全貌がおよそわかってきた、というと言い過ぎだろうか。
酒井説は、飽くまで積雪量の予測技術の話で、カマキリの生態の話ではないのではないか。
酒井氏が、カマキリの卵が産みつけられる高さを基礎として、さまざまな操作(酒井氏の言う「補正」「統計的操作」)を加えることで、次のシーズンの積雪量を予測する技術を確立しつつある、ということは言えるのかもしれない。
しかし当然だが、これが直ちに「カマキリは積雪量を予知できる」ということにはならない。おそらくカマキリについて言えるのは、「新潟山間部のカマキリは、一定以上の割合で、雪に埋もれないところに卵を産みつける」といったところだろう。逆に言えば「すべてのカマキリが、雪に埋もれないところに卵を産みつけるわけではない」ことが確認された、とさえ言えるかもしれない。
そして、酒井氏の主眼は、一貫して「積雪量の予測をしたい」なのだ。そのためにはカマキリの卵の観察が役立つのではないか、という着眼があるわけで、「カマキリは積雪量を予知するのか」に主眼があるわけではない。
そこに鍵がありそうだ。
■誰かが何かを間違えているのではないか?
出版元である農文協の著者紹介ページに、こんなくだりがあった。
酒井 與喜夫
http://www.ruralnet.or.jp/ouen/meibo/191.html
カマキリの卵嚢の高さを測るとともに、産卵した環境も数値に置き換え統計的処理をした。その結果、的中率に相当する相関係数は0.93〜0.97と驚く数値になった。この値は取りも直さず、カマキリは数ヶ月先の最深積雪を予知していると言っても過言ではない。(赤字は引用者による強調)
いや、それは、まさに「過言」なのでは!? 先に「大雪を予測しているのはカマキリではなく酒井氏自身だ」という指摘があったが、むしろそれを裏付ける記述と言える。
実は、この研究は一般書になる前に論文が出されている。この論文で酒井氏は工学博士号を取得した。
きくこま博士が、下記を見つけてくれた。
カマキリの卵ノウ高さと最大積雪深との相関に関する実証的研究
- 長岡技術科学大学附属図書館:平成9(1997)年度博士論文
http://lib.nagaokaut.ac.jp/drdb/h09/z0101.html
論文の概要と要約が読める。そして要約の末尾には「んんん?」となるようなことが……。
本研究は、新潟県を中心として長野県と富山県の一部地域において、約200箇所のカマキリの卵ノウの高さと最大積雪深との相関関係を過去10年間に渡り観測したものを、統計学的に処理した結果得られたものである。これはカマキリの予知能力の本質を明らかにしようとするものではないが、卵ノウ高さと最大積雪深との相関が高いことを利用し、最大積雪深の長期予測に利用することが可能であることを示した。(赤字は引用者による強調)
つまり、酒井氏もわかっているのだ。そのうえで「カマキリが予知していると言っても過言ではない」と言う。
これは推測だが、ひょっとすると酒井氏はレトリックとして「カマキリの予知」と言っているのかもしれない。「これは自分の手柄ではなく、カマキリのおかげなんです」と言いたかっただけかもしれない。
中谷宇吉郎の「雪は空からの手紙」ということばを思い出した。これは直喩だ。本当に空が手紙を書いていると中谷が考えていたわけではない。
いや、カマキリの卵がまずあったわけだから、本気で「カマキリは予知している」と言えると考えているのかも、と考えることもできる。本当のところはわからない。
しかし、酒井氏はカマキリ関連の著作でエッセイスト賞まで受賞している。文学的レトリックとして採用した表現と、彼の心情の現れと、その両面というか、そこが弁別されていないために上記のようなタイトルとなった……と考えるのが妥当なのではないだろうか。
もちろん、キャッチーな表現をつかみとるのも文芸的センスの問題だ。あるいは「会社経営者」として培われた営業センスの問題でもあるかもしれない。
少なくとも、酒井氏には微塵の悪意もないだろう。誇大表現や誤った比喩の類いだとは、まったく考えていないだろうと思われる点を「甘い」と評するかどうかは、意見が分かれるところだろう。
ただ、そうだとすると問題なのは、農文協や後述する日経サイエンスといったメディアの言語感覚であり、学位を認定した際に生物学(動物行動学)の日高敏隆氏さえも加わっていながら、研究成果を認めつつも「標題には問題がある」あるいは「カマキリの予知能力ととらえるには、飛躍がある」などとしなかった学位授与機関だろう。
本題ではない部分について細かいことにこだわり過ぎと考える人もいるかもしれない。いや、酒井氏の研究のおかげで安藤氏の研究成果があったと考えれば怪我の功名だ、と考えたい向きもあるかもしれない。しかし、現に「カマキリの予知能力が、科学的に確かめられた」と受け止めている人は、Web上だけでもいくらも観測できる。
誤解を広める不適切な表現であり、誤りとみなすべきだろう。
■結論:「カマキリが積雪量を予知しているとは言えない」
ここまで来れば、改めて結論を述べる必要はないかもしれない。結論は素人目にもかなり明確になったと言っていいだろう。
もちろん、「完全に明らかになった」とは言えない。そのためには酒井氏の生データを確認する必要があるだろう。
しかし大要としては、安藤氏が言うように「大雪を予測しているのはカマキリではなく酒井氏自身だ」と考えるのが自然だろう。そもそも酒井氏の目的意識は「本当にカマキリは積雪量を予知しているのか」になく、カマキリの生態研究をしたわけでさえないのだ。おそらく、これが誤りだったとしても、酒井氏にとっては本質的な誤りでさえないのではないか。「山間部に産みつけられたカマキリの卵のうち、一定の条件を備えたものをサンプリングし、一定の手順で補正をかけることで、かなりの確度で積雪量が予測できる」のであれば、彼は目的を達したと考えるのではないだろうか。
酒井氏の研究は、日経サイエンスの賞も取っている。
「日経サイエンス創刊25周年記念論文賞」優秀賞
『カマキリが高い所に産卵すると大雪』は本当か
http://www.nikkei-science.com/page/magazine/9705/kamakiri.html
酒井氏の学位が「工学博士」だということから
しかし、世間では「カマキリが積雪を予知することが、研究で確認された」という話として広がってしまっている。そのために、昆虫の研究者である安藤氏が(退官後であるにも関わらず)改めて実証研究を開始することになった。これはいわば「トンデモ学説の否定のための研究」と言うことができる。
酒井氏の研究は、雪国の人にとっては本当に有用なものかもしれない(それは、彼の方法での予測が本当にうまくいくと確認されなければなんとも言えないが)。安藤氏も「酒井氏の文章表現が巧み」と言っているように彼の文才が災いしただけかもしれない。キャッチーすぎたのだ。
いや、ごく正直に言うと、前掲の「カマキリは大雪を知っていた」(自然のたまもの 2007年01月17日)を読む限りでは、酒井氏がトンデモさんになる可能性はかなり高かったと言っていいだろう。だって、「カマキリの卵の位置と積雪の関係」はそこそこに、けっこうな相関があるとわかっちゃったら「なぜ予知できるのか」に進み、それを確認するためにセンサーを開発するという具合に、「本当に関係があるのか」からはずれて、自分の関心に従って「横道」に入って行ってしまう。しかもそのセンサーは、どう考えても樹木の振動とは関係のない「脳波」まで測れちゃって……どこに行くんですか、いったい……というありさまですよね?
さらに予測精度を高めるための研究に行ってしまう。いや、それが彼のそもそもの目的なんだから、仕方がないと言えば仕方がないんだけど。
■朝日新聞は、完全に勘違い
そうそう。冒頭で紹介したカアチャンの話は、どうやら安藤氏の業績のことだったようだ。カアチャンがどこでその話を知ったのかは、わからなかったんだけどね。
本人は、「つい最近、朝日新聞で読んだ」というのだけど、どうもそうとは思われない。家にある新聞を橋からひっくり返しても見つからないし、実は朝日は昨年、こんな記事を掲載しているのだ。
記憶力のよい方は、ついさっき見たエントリを覚えているだろう。
朝日新聞be「積雪の量 カマキリがズバリ」(自然観察者の日常 2007年12月16日)
http://ohrwurm.cocolog-nifty.com/blog/2007/12/be_edef.html
酒井與喜夫氏が「カマキリが大雪を知っていた」を出版したのはもう何年も前のこと。それ以降、酒井説を否定する研究発表が安藤喜一氏によってなされている(1)、(2)。それにもかかわらず、朝日新聞に書かれていることは、酒井氏の説を説明したのみで、安藤喜一氏による研究は「異論もある」としか書かれておらず、安藤喜一氏の名前はもちろん、その内容に関しても一切説明が無かった。
実はこの朝日の記事、ネットで読むことができる。先の記事で話題にした会員制「アスパラクラブ」の「日曜ナントカ学」に載っているのだ(しかし、ここまで延々と調べて考察して来ているのだが、この「自然観察者の日常」で紹介されている話から、結局一歩も出てないようなもんなのだよね。いやはや)。
積雪の量、カマキリがズバリ(日曜ナントカ学 2007.12.16)文・前田史郎
http://aspara2.asahi.com/club/user/be_s/20071216/TKY200712130126.html
(例によって、トップでログインしてから順にたどらないと読めません)
ぼくの見方としては、「予測技術の話としてはアリかもなのだが、カマキリの生態の話としては誤りだろう」というもの。だから、この記事は、予測技術の話とカマキリの生態の話を混同したままの「一般人目線で書かれちゃった失敗記事」とみなしちゃう。
実は、どっかで「この記事はおかしいだろう」と問い合わせをした人のブログエントリを見たと思うのだけど、ブックマークし忘れて行方不明。デスクと担当者の言い訳を苦い思いをしながら
あっ!
耐雪性のあるカマキリの卵(自然観察者の日常 2008年5月26日)
http://ohrwurm.cocolog-nifty.com/blog/2008/05/post_c412.html
今日の朝日新聞朝刊の科学欄に「耐雪性のあるカマキリの卵」と題して、弘前大学名誉教授の安藤喜一先生のオオカマキリの卵の耐雪性についての研究が、簡潔に解り易く紹介されていた。えええ〜〜っ!?
(がさごそがさごそ)
あ、あった……。_| ̄|○
「」
ええと……。カアチャンが読んだのもこれでした。「夢だったんじゃないの?」とか言ってごめん。
んで。
訂正記事ってのは目立たない。だから、新聞ってのは訂正記事を出す代わりに、別の欄で採り上げ直してくれることがある。「ひと」なんていう欄でね(ぼく経験者)。
これ、まさにそのパターンのような……。
まあなにしろ、慶賀慶賀! 朝日新聞の科学部も、考え直したってことかな!?
それにしても、最後まで「自然観察者の日常」さんの手のひらから出られませんでしたというエントリになってしまったような……。いや、別にいいんだけど……。
ええい、お釈迦様記念でトラックバックだ!
■おわりに:「カマキリは積雪量を予知する」はニセ科学だったのか?
突然「ですます調」になっちゃいますが。
これは難しいところだと思います。「間違った科学」か「未科学」でしょうか。しかし今後、カマキリの産卵場所と積雪量の関係について酒井説を指示するデータが得られなければ、そして、それでも酒井氏がレトリックとしてではなく「カマキリは予知する」と言い募れば、ニセ科学の仲間入りを果たしてしまうことになるでしょう。
現在、もしも酒井氏の説を根拠に「カマキリは積雪量を予知することが科学的に確かめられた」と広く信じられているのだとすると、その説は誤解に基づくものの可能性が高いです、その後の実証の結果からは「カマキリは積雪量を予知する」というのは誤りと考えられています、というしかないでしょう。
最後に、懐疑的な読者の方で、でも酒井氏を応援している記事がありましたので、ご紹介。
第191回 カマキリは大雪を知っていた(富戸の波 屋根裏の書庫)
http://www.onsenmaru.com/book/B-150/B-191-kamakiri.htm
恐らく著者はとっても面白い方だろうとは思いますが、どうも本書に僕は感情移入し辛い面があります。それは、
「へぇ、カマキリってこんなに面白い生き物なんだ。もっとこの生き
物の事を知りたい」
という素直な驚きよりも、著者の力点が
「積雪予報の精度を如何に高めていくか」
と言う事に置かれているせいではないのかなと思います。
さて、話を元に戻しましょう。今冬は各地で積雪記録が塗り替えられています。著者の地元の新潟でも同様だろうと思います。となると、この冬こそ「積雪予報」の真価が問われる時であった筈です。以下のHPにおいて、10月時点での著者の予報が発表されています。
http://www.web-do.jp/sakaimusen/hellear/winter2005/image/winter2005.pdf
例年の積雪平均値と比較して今年の予報値はさほど高くないように見えます。かなり外してしまったのではないでしょうか。一冬を終えて最終集計値を見ないと何ともいえないのですが、でも今の時点で
「はずれた、はずれた」
とは言いたくありません。もし、外れてしまったならば筆者は予想法をもう一度練り直して来るでしょう。そして、外した時の批判を承知の上でそれでも毎年予報を出し続ける筆者の心意気を買いたいからです。
同感です。
文中で引用されているサイトは、酒井氏の経営する「酒井無線」のものでしたが、既にドメインごとありません。2007年6月1日、近藤電機株式会社と経営統合し、株式会社イートラストとなったためでしょう。副社長に酒井姓の方がおいでですね。縁者の方でしょうか。また、酒井氏は、すでにビジネスの場からは退かれたということかな、とも思います。
2006年末には積雪予想を発表されていたけれども、2007年末には発表されていないようです。今年は、より精緻化された理論を引っさげてカムバックし、予測をばっちり的中させて、カマキリを過度な「予知の期待」から解放してあげてくれるといいなあ、と思います。
酒井説、安藤説に対する論評を徹底的に調べられているのには頭がさがりました。
ありがとうございます
「カマキリが積雪量を予測する」という話は気になっていたんです
半信半疑でいずれちゃんと調べなきゃと思っていたところでした
こんなにわかりやすく整理して頂いて時間を無駄にせずにすみました
謝謝
実に見事なエントリーです。
こういう説を考察する場合には、「”何が言えれば”、”カマキリが予知している”と結論出来るか」、という方向性から考えると、色々整理出来ますよね。
Ohrwurmさん
さっそくのお越しをありがとうございます。いや、あの、無知なので調べるしかなかったのと、検索ならお金がかからないから(汗
鈴柩さん
この話、気になっている人もそこそこいそうですよね。安藤さんの業績はちゃんと紹介したいですねえ。ここでは酒井説は正しいか、に比重がかかっちゃったので、連載の方ででも頑張ってみたいです。
TAKESANさん
>「”何が言えれば”、”カマキリが予知している”と結論出来るか」
ですよね。でも、書籍そのものを読まずに、ここまで状況がわかるというのは珍しいと思います。Webに情報を出してくれているみなさま、とくに懐疑的な読者の方々のおかげです。
エンパワーさん
そのようで。リンクをたどってお見えになっている方も何人かおいでです。過大評価だという指摘もされておいでです(^^;;
興味深く拝見しました。とても上手にまとまっていると思います。亀さんには高レベルな文才がおありのようで。脱帽。
上手くまとまった文章は新たな気付きを導いてくれます。ここで気になったのは「カマキリには積雪予知能力があるとはいえない」にも関わらず「カマキリの産卵位置で積雪は予測できる可能性はある」という矛盾。これって、もしかしたら「カマキリ」という言葉が指し示す範囲の違いからくるのでしょうか?
「カマキリには積雪予知能力があるとはいえない」といったときの「カマキリ」は個体としてのカマキリを指していますよね? けれど、酒井氏が指している「カマキリ」はそれではないような。個体としてのカマキリではなく、統計的に処理される集団としての「カマキリ」だと読めます。
そうすると、個体カマキリには予知能力はなくても、集団カマキリには予知能力は備わっている可能性はある、と見ることもできます。個体にはないものが集団になると備わる、といったようなことはありえるのか? このような疑問が湧いてくるわけでなんですが...。
バカバカしい疑問のようにも思うのですが、いかがなものでしょう?
せとともこさんのところでお目にかかりましたね。
http://ts.way-nifty.com/makura/2008/01/post_13ee.html
こちらでは、はじめまして、だと思います。ようこそ。
「個体にはないものが集団になると備わる」と書いておいでですが、「もの」を「特徴」と読み替えれば、あるのだろうと思います。すぐに思い浮かんだのは「集団心理」という言葉ですが(^^;;
ただ、「個体カマキリには予知能力はなくても、集団カマキリには予知能力は備わっている可能性はある」と考えることができるか、となると「予知能力」の定義次第、「備わる」ということの定義次第ではないでしょうか。
もしそうならば、解釈の余地があることであって、自明の事実に属することではないということになります。
読者の方々の書いたものを見る限り、酒井説では、卵が産みつけられる高さの平均値を求めたり、極端にはずれるものを省いたりといった操作(補正、統計処理)を加えるようです。そのくだりを読んだときに、やはりぼくも「そうした一定の操作で見出せる値があって、それが積雪量をかなりの確度で上回るのであれば、それをもってカマキリが予測していると考えることができるか」ということを考えざるを得ませんでした。
また、そのとき同時に、「それは酒井氏以外でも実現可能な方法なのだろうか」とも考えました。
愚樵さんの疑問が「バカバカしい」のだとすれば、ぼくも同じようにバカバカしい疑問を抱いたわけです(^^)
同時に、ぼくが「カマキリに予知能力はない」と書いたときに、「個体カマキリのことだけを念頭に置いていた」わけではない、ということでもあります。もっとも、判断が正しいかどうかは別の話ですが(^^;;
ちょっと角度を変えて考えてみます。どのような条件がそろえば、誰もが「カマキリには積雪予知ができる」と考えるでしょうか。
たとえば、カマキリの卵の位置の平均偏差かなにかを求めて、「一部に例外はあるが、ほとんどのカマキリは来る積雪量を上回る位置に卵を産む」ことがわかり、さらに「雪の量が大きく変わっても、上記の特性が変わらない(たとえば、新潟のカマキリを青森や東京に移しても、同じことが言える)」のだとしましょう。そうであれば、これはおっしゃるように「個体としてのカマキリは積雪量を予測できるとは言いきれないが、集団としてのカマキリは予測している」と言えるかもしれません。
また、そのような判定に異を唱える人は、ほとんどいないに違いありません。現代人ならほとんど誰でも知っている「集団の特性を知る方法」を使っているだけですものね。
しかし、こうした枠組みを超えて操作を加えるのであれば、あるいは「これでほとんどと言えるか?」「状況が変わっても、特性が変わらないと言えるか?」という辺りでボーダーに属するような領域の問題になれば、それが「カマキリの予知能力」なのか「カマキリの習性を利用した、人間による予測」なのかは、議論になるところでしょう。
現状では、酒井氏の書籍に書かれているデータからは、上記について答えは出ないようです。おそらくデータがないわけではないのでしょうけれども、補正などされていない生のデータが書籍にないということなので。これは、そういう観点からの調査研究ではないためなのか、あるいは論文には載せたけれども書籍には入れなかったということなのかは、わかりませんけれども。
したがって、今のところは「個体カマキリには予知能力はなくても、集団カマキリには予知能力は備わっている可能性はある」かどうかは、「わからない」、すなわち「少なくとも『ある』とまでは言えない」ということになります。
もちろんこれは素人考えです。昆虫の生態の専門家の方であれば、もっと適切な判別方法をご存知かもしれません。「○○という昆虫は、××をする能力がある」などというときに、どのような条件をクリアしているのかを考えれば、あっておかしくないですよね(ハチが花畑の位置を別のハチに伝えるとか、そういう知見はいろいろありますよね)。
そして、昆虫の専門家である安藤氏の結論は、上でお読みになった通りです。ほかの専門家の意見も欲しいような気がしないわけではありませんが、なければ気が済まないというほどではありません。
>高レベルな文才
おほめにあずかりありがとうございます。
職業ライター・編集者としては「中の下」ぐらいの文才だろうと自認しています。
とくにWebではダラダラ書く癖が抜けずに難儀してます。ていうか「下の下」じゃないといいなあ(汗
カマキリの産卵位置と積雪予報については、たとえて言うならば、手相を見ると言って、その人そのものを見て、手相にかこつけて占いをしているのと同じだと思います。
つまり、(無意識的であれなんであれ)酒井氏の(直感的な?)積雪予想がまず先にあり、それを裏付けるようにカマキリの卵を発見、さらにデータ補正しているのではないか、というのが今の私の予想です。
トラックバックもお送りしていない不躾な引用にも関わらず(しかもサイト名が抜けていましたね。重ねて失礼致しました。いましがた加筆修正しました)、わざわざのご訪問、痛み入ります。
ぼくは統計の知識も生物学の知識もありませんし、なにより書籍自体を読んでいないという手抜き調査なのですが、混沌さんをはじめとする調査・検討手法に関する論評を読み、安藤氏の調査の結果との齟齬を知るだけで「酒井説(カマキリは積雪量を予知する)は穴だらけ」と判断するには十分でした。ありがとうございます。
混沌さんがおっしゃる「手相にかこつけた占い」は、コールドリディングと呼ばれる手法ですね。ある種の詐術と言ってもいいと思います。
ぼくは酒井氏に悪意があったと考えているわけではないのですが、その点も含めて、おっしゃることに同意します。
上で紹介している安藤氏の研究からは、「カマキリの卵の多くは、雪に埋もれる高さに産みつけられていた」しかし「カマキリの卵には耐雪性がある」ということがわかりますね。庭の木に移した卵も、きっと無事にふ化したこととご安心いただいていいと思います^^